誠実さはどこから生まれるのか──本物のリーダーの条件｜INNERSHIFT

リーダーシップにおいて「Authentic（本物であれ）」というメッセージは強い魅力を持ちます。しかし、その言葉が独り歩きすると、好きなように言い、思ったようにふるまうことこそ“本物らしさ”だと誤解されることがあります。

Forbes JAPANの記事「職場での信頼構築：本物のリーダーが影響力を持つ秘訣」（著者：レット・パワー（Rhett Power））では、この誤解の危うさを指摘し、リーダーの影響力は表層的な自己表現ではなく、誠実な関係づくりに宿ると述べています。信頼は態度ではなく、日々の行動の積み重ねに支えられていくのです。

「Authenticであれ」の誤解──“ありのまま”は信頼を生まない

「自分らしく」「ありのままに」。この言葉は一見すると魅力的ですが、組織の関係を考えると、そのままでは不十分です。

レット・パワー（Rhett Power）が示すように、Authenticityは“自己中心的な本音”を押し通す姿勢のことではありません。リーダーの発する言葉と行動が一致しているか、約束を果たしているか、相手に対して誠実であろうとしているか。その透明性と整合性こそが、周囲の信頼を支える土台になります。

好き勝手にふるまうことが本物らしさなのではなく、相手との関係に対して誠実であろうとする姿勢が本物を形づくるのです。

オーセンティック・リーダーシップ（Authentic Leadership）理論が示すもの

学術研究では、オーセンティック・リーダーシップ（Authentic Leadership）理論（ワルムブワ（Fred Walumbwa）ほか, 2008）が“本物らしさ”をより精緻に捉えています。

この理論は次の4つを中核に据えています。

自己認識：自分の価値観、強み、弱さを把握していること。
内面的道徳観：外圧に揺らされず、自分の信じる価値基準で判断すること。
関係における透明性：必要な情報を隠さず共有し、相手が判断できる状態をつくること。
一貫した行動：言うことと実際の行動が一致していること。

レット・パワー（Rhett Power）が記事で示した論点は、この4つと重なっています。つまり、本物のリーダーとは本音をさらけ出す人ではなく、価値観と行動を一致させ、関係の透明性を保ち続ける人だと言えます。

Authenticityは自己主張ではなく、関係を大切にする姿勢によって生み出される概念なのです。

Emotional Compass「誠実のリーダー」に見る“信頼の源泉”

Emotional Compassの特性 trait_18「誠実性」は、まさに“本物らしさ”の構造を描いています。

価値観と行動をそろえること、必要な情報を隠さない透明性、約束や説明責任から逃げない態度。これらは単なる美徳ではなく、関係をつくるための実践と言えます。

信頼は一度の行動で得られるものではなく、こうした小さな整合性を積み重ねていくなかで育っていきます。誠実さとは、自分にとって心地よい“らしさ”ではなく、相手との関係に向き合い続ける姿勢のことです。

本物らしさは態度ではなく行動に宿り、その総和として信頼が立ち上がります。あなたが日常のどの行動で誠実さを示しているか、その積み重ねはどんな関係を育てているでしょうか。

最上雄太. (2025). 主体性はなぜ生まれないのか──関係がつくるリーダーシップの核心. INNERSHIFT JOURNAL.
https://innershift.jp/the-innershift-way/shared-leadership-relational-core/
最上雄太. (2025). 信頼はどこから生まれるのか──小さな約束がつくる関係の土台. INNERSHIFT JOURNAL.
https://innershift.jp/the-innershift-way/why-trust-starts-from-small-commitments/
最上雄太. (2025). 言葉と行動のズレはなぜ信頼を奪うのか──インテグリティの構造. INNERSHIFT JOURNAL.
https://innershift.jp/the-innershift-way/integrity-trust-gap/

参考文献

Power, R.（レット・パワー）. (2024). 職場での信頼構築：本物のリーダーが影響力を持つ秘訣. Forbes JAPAN.
https://forbesjapan.com/articles/detail/83965

Walumbwa, F. O., Avolio, B. J., Gardner, W. L., Wernsing, T. S., & Peterson, S. J. (2008). Authentic Leadership: Development and Validation of a Theory-Based Measure. Journal of Management, 34(1), 89–126.
https://doi.org/10.1177/0149206307308913