コア・バリュー──揺れない判断をつくる“見えない根”｜意思決定を支える価値観のつくり方

判断が揺れるとき、私たちは自分の弱さを疑ってしまいます。しかし、揺れの原因は「意思の弱さ」ではありません。

多くの場合、価値観が曖昧なまま状況に流され、判断の軸が定まらなくなっているだけです。

どれだけ経験を積んだリーダーでも、価値観が揺れていると判断は不安定になります。逆に、価値観が腹の底で結びついていると迷いが減り、行動は一貫し、関係は強くなります。

本稿のテーマは、この“見えない根”としてのコア・バリューです。

最新のHarvard Business Reviewでロバート・グレイザー（Robert Glazer）は、「家族」「誠実」など単語だけの価値観では意思決定を導けないと述べています。一見立派な言葉でも、状況によって解釈がぶれるため、行動基準として機能しにくいのです。

価値観は“良い言葉の装飾”ではなく、“判断のインフラ”として設計し直す必要があります。

価値観は“理念”ではなく、意思決定のインフラ

価値観が整理されていないと、私たちは目の前の状況に引っ張られます。相手に合わせたり、空気を読んだり、その場しのぎでバランスを取ろうとして判断が揺れます。

グレイザーは、価値観は「単語」ではなく「行動がわかるフレーズ」で記述すべきだと述べています。

例えば
「誠実」ではなく
「約束した期限を必ず守る」
「事実が変われば判断も変える」。

こうした具体的な行動軸があると、迷う場面でも判断はぶれません。

価値観が“理念”として掲げられるだけでは不十分です。理念は語るものではなく、行動の手足として使うもの。価値観を行動レベルまで落とせているかどうかが、判断の質を大きく左右します。

価値観とは、「自分らしさの言語化」ではなく「迷った場面で何を選ぶか」を支える基盤です。

価値観は内面だけの話ではありません。EQリーダーシップ®の四因子（SA/SM/SO/RM）から見ると、価値観はリーダーシップ全体を支える“見えない根”として働きます。

SA（自己認識）
価値観は、自分が何に怒り、何に喜び、何に揺れるのかという「感情の意味づけ」を可能にします。自分の反応の“理由”がわかるため、状況に振り回されなくなります。

SM（自己管理）
価値観が行動レベルで明確なほど、行動の一貫性が生まれます。判断の迷いが減り、ストレスも軽減されることがHBR研究でも示されています。

SO／RM（関係形成・関係管理）
価値観が明確な人は、他者との関係で“何を大切にするか”がぶれません。軸が一貫していることで、信頼が蓄積されていきます。

価値観は内面の問題ではなく、関係を形づくる社会的作用点なのです。

感情→行動→関係というINNERSHIFTの循環は、価値観を軸にするとより強固になります。

価値観を見つけるのは、難しそうでいて、手順さえあれば誰でもできます。HBRの「6つの問い」を踏まえつつ、INNERSHIFT向けに“実践しやすい３ステップ”に再構成しました。

1｜感情履歴をたどる
最近「強く揺れた」場面を3つ書き出してください。怒り・違和感・安心・誇り。その感情の裏側に価値観があります。

2｜単語を“行動フレーズ”に変換する
例えば「信頼」。単語のままでは曖昧ですが、「約束を守る」「不明点を曖昧にしない」「できないときは正直に伝える」など、行動に落とすと判断軸として機能します。

3｜小さく共有する
いきなり大人数に共有する必要はありません。信頼できる一人に「こういうことを大事にしている」と伝えてみてください。価値観は、共有されて初めて関係の中で強くなります。

価値観は掲げるものではなく、育てるものです。言語化し、小さく試し、関係の中で磨かれていく。揺れない判断の背景には、こうした静かなプロセスがあります。

では、あなたが迷ったときに立ち返りたい“行動フレーズ”は何でしょうか。誰との関係を育てるための言葉でしょうか。判断は、価値観からはじまります。

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