安全を選ぶか、挑戦に踏み出すか|意思決定を支える「リスク選好性」とは

執筆:最上 雄太

迷う瞬間にこそ、リーダーの姿勢が表れる

Emotional Compassでは、本特性は自己管理(SM)因子に属します。

新しいプロジェクトに挑むか、それとも堅実に現状維持を選ぶか──誰もがリーダーとして直面する問いです。挑戦すれば成果と学びを得られる可能性がある一方で、失敗や損失のリスクも伴います。安全を優先するのか、それともリスクを取るのか。この判断の傾向を「リスク選好性」と呼びます。

Compassでは、リスク選好性は「自己管理(SM)」因子に含まれる重要な特性です。弱めの傾向があるときには、リスクを避けようとする姿勢が強まり、挑戦をためらいがちになります。しかし裏を返せば、それは「慎重さ」や「堅実な判断力」として組織を守る強みでもあります。

リーダーにとって、リスクをどう扱うかは意思決定力そのものを形づくります。過度にリスクを避ければ革新は難しくなりますが、リスクを顧みずに突き進めば組織を危険にさらすことにもなります。そのバランスをどう取るかが、リーダーの信頼を左右するのです。


研究と実務が示すリスク選好性の視点

心理学者ダニエル・カーネマンは『ファスト&スロー』(2011, Thinking, Fast and Slow)において「プロスペクト理論(prospect theory)」を提唱しました。人は利益を得る場面よりも損失を避ける場面で強く感情的に反応しやすいことを示し、リスク回避の傾向が人間の意思決定に深く影響していると説明しました。リーダーにとって、この認知バイアスを理解することは、意思決定の質を高める第一歩になります。

実務の観点では、イアン・ブレマー(2005)が「不安定な世界におけるリスクマネジメント(Managing Risk in an Unstable World)」で、不確実性が高まる環境においてリーダーはリスクを正しく測り、戦略的に分散する必要があると論じています。リスクを「ゼロにする」のではなく、「管理可能にする」姿勢が、変動の時代を乗り切るカギになるのです(HBR記事)。

著者の最上雄太(2022)は『シェアド・リーダーシップ入門』で、挑戦と安全のバランスをどう取るかが協働を左右すると述べています。さらに『人を幸せにする経営』(2025)では、組織が堅実さと挑戦を両立させるとき、持続的に成長できると説いています。リスク選好性をどう育むかは、個人だけでなく組織全体の未来を左右するテーマだと言えるでしょう。


明日から試せる実践レシピ

  1. 小さなリスクを試す
     日常の中で小さな挑戦を意図的に取り入れ、「失敗しても致命的ではない経験」を積み重ねてみましょう。
  2. 安全策と挑戦策を両方書き出す
     意思決定の際に、安全を優先する案と挑戦的な案を並べて書き出すことで、選択肢を客観的に比較できます。
  3. 最悪のシナリオを想定して安心を確保
     「最悪でもこの程度」とシナリオを描いておくと、不安を抑えながら挑戦に踏み出しやすくなります。
  4. 信頼できる仲間とリスクを共有する
     一人で抱え込まずに仲間と意見を交わすことで、見落としを防ぎ、リスクを管理可能な範囲に収められます。

まとめ

リスク選好性は、挑戦と安全のどちらに傾くかという個人や組織の傾向を示すものです。弱めの傾向があるときには、リスクを避ける姿勢が強まり、革新や成長の機会を逃すことがあります。しかしその裏側には「慎重さ」「堅実な判断力」という強みが隠れています。

リーダーがリスクをどう扱うかは、チームの文化や意思決定の質に直結します。過度にリスクを避ければ停滞を招きますが、無謀な挑戦もまた危険です。大切なのは、そのバランスを理解し、意図的に選び取る姿勢です。

👉 あなたは、次の一歩でどの程度のリスクを取る準備がありますか?


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