できる/できないが見えなくなるとき、誰を支えるのか──AI時代のサーバント・リーダー|INNERSHIFT

できる/できないが見えなくなるとき、誰を支えるのか──AI時代のサーバント・リーダー|INNERSHIFT

AIを使うことで、仕事は確かに進みやすくなっています。これまで時間がかかっていた作業も、短時間で一定の水準まで仕上がるようになりました。

ただ、その中で、別の感覚が残ることがあります。

誰がどこまでできているのかが、以前よりも見えにくい。教えたことで伸びたのか、AIを使ったからなのかが分からない。任せていいのか、支えたほうがいいのか、その判断が揺れる。

できる/できないで関係を捉えていたはずなのに、その基準自体が、少しずつ曖昧になっているように感じるのです。

能力差が縮まるとき、何が起きているのか

この変化は、感覚的なものではなく、実証的にも確認されています。

Noy と Zhang による研究「Experimental Evidence on the Productivity Effects of Generative Artificial Intelligence」では、生成AIを用いることで、特にパフォーマンスの低かった層の生産性が大きく向上することが示されています。

ここで起きているのは、単なる効率化ではありません。もともと存在していた「できる人」と「できない人」のあいだの差が、急速に縮まっていくという現象です。

これまで、私たちは「どこまでできるか」を手がかりに役割を分け、その前提の上で関係を築いてきました。

教える/教わる
任せる/支える
導く/ついていく

そうした関係は、能力の違いを前提に成り立っています。

しかし、その差が見えにくくなったとき、関係を支えていた前提そのものが揺らぎ始めます。

分業と関係は、どのように変わるのか

この変化は、能力差だけにとどまりません。

Brynjolfsson らの研究「Generative AI at Work」は、生成AIが仕事の進め方そのもの、つまり分業のあり方を変えていくことを示しています。

誰が何を担うのか。どこまでを任せ、どこからを支えるのか。その境界が、これまでのように固定されたものではなくなっていきます。

さらに、Faraj らの研究「Working and Organizing in the Age of the Learning Algorithm」は、AIの導入によって、人と人の関係が直接的なものではなく、AIを介した形へと変わっていくことを指摘しています。

人と人が向き合っているようでいて、そのあいだには常にAIが介在している。このとき、私たちは相手の力を見ているのか、それともAIの出力を見ているのかが、曖昧になります。

見ているものが変わるとき

以前は、相手のアウトプットを見れば、どこまで理解しているのか、どこでつまずいているのかが、ある程度推測できました。

その前提で、「ここは任せてもよさそうだ」「ここはまだ支えたほうがいい」と判断していたはずです。

しかし今は、同じように見えるアウトプットが並びます。

整っている。破綻していない。一定の水準を満たしている。

けれど、その中身が見えない。

どこまで自分で考えたのか。どこからがAIの助けなのか。どこに理解があり、どこに空白があるのか。その境界が、曖昧になります。

ここで起きているのは、能力が上がったというよりも、「能力を読み取る手がかり」が失われている状態です。

できる/できないという違いが消えたのではなく、それを判断するための視点が機能しなくなっている。

だからこそ、任せていいのか、支えるべきなのか、その判断自体が揺れます。

サーバント・リーダーは、何を支えているのか

この状況で問われるのは、サーバント・リーダーの前提そのものです。

サーバント・リーダー

サーバント・リーダーは、相手を支え、成長を後押しすることで組織を動かしていきます。その起点にあるのは、相手の状態を受け取る力です。

どこで止まっているのか。何に迷っているのか。どこまで進んでいるのか。

そうしたものを感じ取りながら、関わり方を調整していく。

しかし、その「感じ取る対象」が曖昧になったとき、何が起きるのでしょうか。

傾聴しているつもりでも、それは相手の思考ではなく、AIの出力かもしれない。対話しているつもりでも、そこにはすでに別の知性が介在している。支えているつもりでも、実際にはどこを支えているのかが定まらない。

このとき、サーバント・リーダーは、「相手を見て支える」という前提に立ち続けることができるのでしょうか。

支える対象は、どこにあるのか

ここで一つの見方を置くとすれば、これまでサーバント・リーダーが支えていたのは、「人の能力」だったのかもしれません。

しかし今、曖昧になっているのは能力そのものではなく、「その人が、どのように考えているのか」です。

だとすれば、支える対象もまた、成果でも能力でもなく、思考のプロセスそのものへと移っていく可能性があります。

ただ、そのときに何が起きるのかは、まだはっきりしていません。

思考を支えるとはどういうことなのか。どこまで関わることが支えになるのか。それは、これまでと同じ関係の延長なのか。

できる/できないが見えなくなるとき、誰を支えるのか。

その問いは、まだ途中にあるように感じます。


参考文献

Noy, S., & Zhang, W.(2023)
Experimental Evidence on the Productivity Effects of Generative Artificial Intelligence
https://arxiv.org/abs/2304.11771

Brynjolfsson, E., Li, D., & Raymond, L.(2023)
Generative AI at Work
https://www.nber.org/papers/w31161

Faraj, S., Pachidi, S., & Sayegh, K.(2018)
Working and Organizing in the Age of the Learning Algorithm
https://doi.org/10.1016/j.irla.2018.07.005


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