会議の場で、こんな瞬間に出会うことがあります。
ある人は、自分の感情を率直に語ります。
「正直、不安を感じています」「この決定には違和感があります」
一方で、別の人はあまり感情を語りません。
事実や判断だけを静かに共有します。
一般には、感情を率直に語る人のほうが、
誠実で信頼できるリーダーに見えると言われます。
しかし実際の対話の場では、
感情が語られるほど議論が混乱することもあります。
怒り、不満、不安。
そうした言葉が増えるほど、
議論の焦点がぼやけてしまうことがあるのです。
感情を伝えることは大切だと言われます。
しかし、それは単純に「感情を多く語ること」なのでしょうか。
もしかすると問題は、
感情を表現するかどうかではないのかもしれません。
感情をどれだけ「言い分けられるか」
近年の感情研究では、
Emotion Granularity(感情粒度)
という概念が注目されています。
これは、人が自分の感情をどれだけ細かく識別できるかを表す概念です。
たとえば、私たちはよく
「不安」
「怒り」
「悲しみ」
といった大きな言葉で感情を表現します。
しかし実際には、その内側には多くの違いがあります。
同じ「不安」という言葉の中にも、
- 判断への迷い
- 結果への恐れ
- 責任への重さ
- 状況への戸惑い
など、異なる感情が含まれていることがあります。
感情粒度とは、こうした違いをどれだけ丁寧に識別できるかという能力です。
心理学者リサ・フェルドマン・バレット(Lisa Feldman Barrett)らの研究では、
人が感じている感情は必ずしも単純なカテゴリーではなく、
より細かな経験の集合として構成されていることが示されています。
つまり、感情を理解するとは、
感情の種類を増やすことではなく、
自分の感情をより正確に区別することでもあるのです。
感情粒度と感情調整
この能力が注目される理由は、
感情理解の問題にとどまらないからです。
近年の研究では、感情粒度が高い人ほど
感情調整能力が高いことが示されています。
たとえば、Hoemannら(2023)の研究では、
感情粒度の高さと感情調整能力との関連が確認されています。
研究では、
感情粒度が高い人ほど
ストレス状況において感情反応が安定しやすく、
感情調整能力との関連は
およそ r ≈ .30 前後
の相関が示されています。
これは、
感情を細かく識別できる人ほど
感情に振り回されにくい傾向がある
ことを示唆しています。
ここで重要なのは、
感情を抑える能力ではないという点です。
むしろ、
感情を理解する解像度が高い人ほど、
感情との付き合い方が柔軟になるのです。
感情を多く語る力ではない
この研究が示しているのは、
感情表現の量ではありません。
重要なのは、
感情をどれだけ丁寧に言葉にできるか
という点です。
たとえば、ある意思決定の場面で
「不安です」
という言葉が出たとします。
しかし、その不安が
- 情報不足への不安
- 責任の重さへの不安
- 判断のタイミングへの迷い
のどれなのかによって、
対話の方向は大きく変わります。
感情の言葉が粗いままだと、
対話は曖昧なまま進みます。
しかし感情が丁寧に言い分けられると、
対話は次第に整理されていきます。
この違いは、
単なる言葉の問題ではありません。
対話の質そのものに影響します。
感情表現力という特性
Emotional Compassでは、
この力を
感情表現力
という特性として扱っています。
感情表現力とは、
自分の気持ちに気づき、それを言葉で素直に伝える力です。
▶ 感情表現力
https://innershift.jp/twentyfour-traits/trait_01/
一般には、この特性は
「率直に感情を語ること」
として理解されることが多いかもしれません。
しかし、感情粒度の研究は、
もう一つの側面を照らしています。
それは、
感情をどれだけ丁寧に言葉にできるか
という力です。
感情を表現するとは、
感情を強く語ることではありません。
自分の内側にある感情を、
どれだけ正確に言葉にできるか。
その違いが、
対話の質を静かに変えていきます。
組織の対話で起きていること
組織の会議では、
多くの感情が
粗い言葉
で語られます。
「不安があります」
「違和感があります」
「納得できません」
しかしその背後には、
- 判断への迷い
- 期待が裏切られた失望
- 時間への焦り
- 責任の重圧
など、異なる感情が混ざっていることがあります。
それらを一つの言葉でまとめてしまうと、
対話は混線しやすくなります。
しかし感情が丁寧に言い分けられるとき、
対話は少しずつ整理されていきます。
それは、感情を排除することではありません。
むしろ、
感情をより正確に扱うことなのです。
感情の言葉が変えるもの
リーダーシップの議論では、
感情を率直に伝えることの重要性が語られます。
それは確かに重要なことです。
しかし同時に、
感情をどれだけ丁寧に言い分けられるか
という力も、
対話の質に関わっています。
感情を表現する力とは、
感情を多く語る力ではないのかもしれません。
自分の感情を
どれだけ細かく言葉にできるか。
その違いが、
対話の方向を少しずつ変えていきます。
リーダーの言葉が
場の空気を変えるとき。
そこには、
自分の感情を丁寧に言葉にする姿勢が
あるのかもしれません。
参考文献
Hoemann, K., Nielson, C., Yuen, A., Gurera, J., Quigley, K. S., & Barrett, L. F. (2023).
Emotion Granularity and Emotion Regulation.
Barrett, L. F. (2017).
How Emotions Are Made: The Secret Life of the Brain.
INNERSHIFTからのお知らせ
INNERSHIFTでは、
感情と意思決定、対話、リーダーシップの関係を
Emotional Compass を通じて探究しています。
本記事で扱った感情表現力は、
自分の気持ちに気づき、それを言葉で率直に伝える力です。
感情を押さえ込むのではなく、
対話の中で丁寧に扱うことが、信頼関係を支える土台になります。
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