営業と開発の“非対称性”はなぜ生まれるのか|光と影がすれ違う組織構造の核心

執筆:最上 雄太

営業は未来を語り、開発はリスクを抱える。
同じ組織の中にいながら、光と影のようにすれ違うことがあります。

会議では営業が「挑戦しよう」と語り、開発は「どうやって実現するのか」と慎重さを強める。
どちらが正しいわけでもないのに、互いの言葉は届かないまま議論が噛み合わなくなっていく。

この非対称性は、性格の違いでも、部門特性でもありません。
役割がつくり出す構造的な立ち位置の差そのものです。

本稿では、営業と開発の間に生まれる温度差を「光と影」として捉え、その根底にある構造、そして突破口を探ります。


なぜ“光”と“影”はすれ違うのか──役割ではなく構造がつくる非対称性

営業は“未来の物語”を語る職能です。
顧客が求める未来像を描き、その可能性をつかみにいくことが役割になるため、自然と視点は外側へ、時間軸は前へ向かいます。希望や可能性といった“光”を扱う領域です。

一方で開発は、“責任の現実”を扱います。
障害を予測し、品質を担保し、顧客に迷惑をかけないための地道な調整を続ける必要があります。どれだけ前向きな案件でも、設計・仕様・データといった現実の制約に向き合うため、“影”の重さが増します。

重要なのは、この差が性格の違いではなく、構造が生み出す非対称性だということです。

ジェフリー・フェファー(Jeffrey Pfeffer)『権力(Power)』では、権力の位置によって人の認知が変わると述べられています。同じ情報でも、未来を売る立場と、負荷を引き受ける立場では、見える景色が異なる。
これは部門間でも同じです。

“光”と“影”は、人の個性ではなく、役割と構造がつくり出しているのです。


なぜ会議で噛み合わないのか──防衛的ループが声を奪うメカニズム

営業は「挑戦しなければ勝てない」という正しさを語り、開発は「失敗すれば顧客に迷惑がかかる」という正しさを守ろうとします。
ここまでは自然な姿です。

問題は、互いの“正しさ”が、自己防衛のループに変わる瞬間です。

クリス・アージリス(Chris Argyris)『熟達の理論(Theory of Action)』では、防衛的例外処理が起きると、人は自分の前提を守るために情報の取り込み方が偏ると述べられます。

営業側は、「挑戦しないことが最大のリスクだ」という物語を強化し、開発側は、「リスクを抑えることこそ責任だ」という前提を深める。
その結果、双方は互いの言葉を“誤解なく聞く”ことができなくなり、会議はすれ違い続けます。

この状態では、どれだけ議論を重ねても“翻訳点”が失われていきます。
対話そのものが、構造によって奪われるのです。


突破口はどこにあるのか──責任・時間・翻訳点を再配置する“構造デザイン”

非対称性は努力では解消できません。
必要なのは、構造そのものを再配置することです。

ニコラス・A・クリスタキス(Nicholas A. Christakis)『社会性の科学(Connected)』が示すように、組織のふるまいは“関係のネットワーク”によって決まります。配置が変われば、自然と行動も変わる。

営業と開発のすれ違いも、責任・時間・翻訳点の配置を変えることでしか乗り越えられません。

たとえば、

この“配置の再設計”を支えるのが IS360(関係の360度分析) です。
営業と開発の間にある“暗黙の責任勾配”や“翻訳点の欠落”を見える化することで、関係の再配置に必要な基盤が整います。

非対称性は、努力や相互理解だけでは消えません。
構造の再編としてのリーダーシップ が必要なのです。


問いを残す

光と影のすれ違いは、役割ではなく構造がつくります。
では、構造を変える一歩はどこにあるのでしょうか。

あなたのチームで“翻訳点”をつくるとしたら、最初にどの関係を再配置しますか。


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