倫理は「正しい判断」なのか──倫理のリーダーがつくる組織の安心感|INNERSHIFT

「倫理的なリーダー」と聞くと、多くの人は「正しい判断を下す人」を思い浮かべるかもしれません。

不正を許さない。
ルールを守る。
公正な判断を行う。

倫理という言葉は、しばしば「何が正しいか」を見極める能力として理解されます。

しかし組織研究の中では、倫理的リーダーシップは少し異なる側面から注目されています。

それは、倫理が単なる判断の問題ではなく、組織の中にどのような安心感を生むのかという視点です。

倫理的なリーダーがいる組織では、人はどのように振る舞うのでしょうか。
そして、その存在は組織の関係性にどのような影響を与えるのでしょうか。


倫理を「判断」として理解する限界

倫理という言葉は、どうしても個人の内面と結びつけて理解されがちです。

その人が誠実であるか。
正しい価値観を持っているか。
利害に左右されず判断できるか。

こうした問いはもちろん重要です。

しかし、組織の現実を考えると、倫理は必ずしも個人の判断だけで成り立つものではありません。

たとえば会議の場で、誰かが違和感を感じていても、それを口にできないことがあります。
問題に気づいていても、組織の空気によって沈黙が選ばれることもあります。

倫理が守られるかどうかは、個人の勇気だけではなく、その場の関係性や空気に大きく影響されます。

その意味で、倫理とは単なる判断ではなく、組織の中でどのような関係が育っているのかという問題でもあります。


組織研究が示す倫理的リーダーシップ

Babalola ら(2022)は、倫理的リーダーシップと従業員行動の関係について、複数の研究を統合的に分析しています。

その結果、倫理的リーダーシップは次のような行動と関連していることが示されています。

特に興味深いのは、発言行動との関係です。

発言行動とは、組織の問題点や改善点について、自発的に意見を述べる行動を指します。

組織にとって重要な気づきや提案は、こうした行動の中から生まれることが多いでしょう。

しかし、人は必ずしも自由に発言できるわけではありません。

自分の意見が否定されるのではないか。
関係が悪くなるのではないか。
余計なことを言ったと思われるのではないか。

そうした不安があると、人は沈黙を選びます。

倫理的リーダーシップは、この沈黙を少しずつ解きほぐしていく働きを持つと考えられています。


倫理は「安心感」として現れる

倫理的なリーダーは、単に正しい判断を下す人というよりも、安心して関われる存在として認識されることが多いようです。

約束を守る。
態度が一貫している。
人によって扱いが変わらない。

こうした姿勢は、周囲の人にとって予測可能性を生みます。

この人の前では、安心して話ができる。
意見を言っても、誠実に受け止めてもらえる。

そうした安心感が、組織の中に少しずつ広がっていきます。

倫理的リーダーシップがもたらすのは、劇的な改革ではないかもしれません。
むしろ、関係の中に静かに積み重なっていく信頼です。

その信頼が、やがて組織の行動を変えていきます。


倫理を支える日常のふるまい

Emotional Compassの24特性で考えると、倫理的リーダーシップにはいくつかの特性が関係してきます。

情動調整力
https://innershift.jp/twentyfour-traits/trait_06/

ムード調整
https://innershift.jp/twentyfour-traits/trait_12/

関係志向性
https://innershift.jp/twentyfour-traits/trait_10/

たとえば、場の緊張を感じ取って空気を整えること。
感情に流されず、落ち着いて関係を保つこと。
目の前の人との関係を大切にしようとすること。

こうしたふるまいは、一見すると倫理とは直接関係がないように見えるかもしれません。

しかし日々のやりとりの中で、こうした態度が積み重なることで、人は「この場では安心して話せる」と感じるようになります。

倫理は、理念として語られるだけでなく、日常の関係の中で形づくられていくものなのかもしれません。


倫理は判断なのか、関係なのか

倫理という言葉を聞くと、どうしても「正しい判断」に目が向きます。

しかし組織の中で倫理が機能するためには、判断だけでは足りません。

人が安心して声を出せること。
違和感を共有できること。
意見の違いが関係の破綻につながらないこと。

こうした関係があるとき、倫理は単なるルールではなく、組織の中で自然に働き始めます。

倫理とは、正しい答えを持つことなのでしょうか。
それとも、人が安心して問いを出せる関係をつくることなのでしょうか。

倫理のリーダーという存在は、その問いを改めて私たちに投げかけているのかもしれません。


参考文献

Babalola, M. T., Stouten, J., & Euwema, M.(2022)
Ethical leadership and employee voice: A meta-analysis. Journal of Organizational Behavior.


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