変化はどこから始まるのか|リーダーの“足りなさ”が動きを生む | INNERSHIFT

執筆:最上 雄太


■ 変化は、意外な“揺れ”から始まる

会議では前向きな言葉が並ぶのに、実際にはほとんど動きがない。
方針を示しても、進捗はゆっくりで、誰も悪いわけではないのに“どこか重い空気”が続いてしまう。

企業支援の実践のなかでも、私は、こうした「変化が起きない現場」に何度も出会ってきました。

そして、そんな停滞が続くチームほど、変化の突破口は意外なところにあります。

それは──

リーダー自身が、自分の“足りなさ”を率直に語った瞬間。

これは、シェアド・リーダーシップ入門で取り上げた「挑戦者の会」でもまさに現れた現象でした。
チームリーダーが、

「私自身の至らない点を反省している。だけど、このチームで前に進みたいと思っている」

と語った瞬間、空気が変わったのです。

それは愚痴ではありませんでした。
責任放棄でもありませんでした。

“現実を認めながら、それでも前に進む覚悟”を共有する言葉。

そこから、他のメンバーも自分の言葉で語り始め、
チームの主体性がゆっくりと立ち上がっていきました。

企業支援の現場でも、大学院の現場でも、
まったく同じ“揺れ”を私は何度も目撃しています。


■ 理論は“正解の手法”ではなく、現場を映すレンズである

課題が生じると、組織はしばしば「新しい手法」「最新フレームワーク」を探しにいきます。
しかし、どんな理論も、そのままでは現場にフィットしません。

現場には歴史、力学、関係、価値観、感情──
地図(理論)だけでは把握できない“地形”が広がっているからです。

そこで重要になるのが、

理論を“使う”のではなく、理論で“現場を見る”という発想。

この視点は、近年の実務研究でも補強されています。

ジェイド・イースト(Jade East)
『リレーショナル・リーダーシップ──非階層型リーダーシップ理論の基盤(Relational Leadership: Foundational for Nonhierarchical Leadership Theory)』
では、

「強い相互人間関係こそが、効果的なリーダーシップの鍵である」

と述べられています。

ここで言う“強さ”とは、上下関係の強度ではありません。
信頼・共感・対話が生む結びつきを指しています。

つまり、リーダーが個人としてどれだけ優れているかよりも、

人と人のあいだで何が生まれ、どう関係が動くのか。

この“関係的プロセス”こそが、変化を生む源泉なのです。

これは、挑戦者の会で観察された“感情の共鳴”とも驚くほど一致します。


■ 感情の共鳴──シェアド・リーダーシップのトリガー

挑戦者の会では、最初は誰も本音を言わず、
それぞれが“自分なりの正しさ”で動こうとしていました。

しかし、リーダーが自らの足りなさを率直に語ったとき、
メンバーはそれを「弱さ」ではなく、

“覚悟をもった誠実さ”

として受け取りました。

そこから、他のメンバーが次々と
「実はこう思っていた」「言えなかったけれど…」
と語り始めたのです。

このプロセスが示しているのは、次のことです。

うまくいかなさを語れる関係が、変化の第一歩になる。

語れない関係こそが、停滞の正体である。

企業支援の現場でも同じ現象が起きています。

ある企業では、部長がこう語りました。

「正直、いまの状況をどう動かせばいいか、自分にも分からない。
でも、ここから逃げずに、皆で前に進みたいと思っている。」

その言葉が場を揺らし、
メンバーの行動が小さく動き始めました。

これは、理論では説明しきれない、
関係の揺れがもたらす実践知です。


■ 研究は地図、現場は地形──往復でしか見えないものがある

博士研究では、理論は明確に整理されています。
しかし、実務現場に入ると、その美しさは揺らぎます。

組織特有の空気、暗黙の序列、語られない本音──
**地図(理論)だけでは捉えきれない“地形(現場)”**が立ち上がります。

しかし、このズレは理論の限界ではなく、

“実践知が生まれる入口”でもある。

挑戦者の会がそうだったように、
企業支援でも、同じプロセスが起きます。


■ The INNERSHIFT Way──揺れを受け止め、歩き直す

企業、チームにおいて、変化が生まれる瞬間には共通点があります。

  1. リーダーが不足を率直に語ったとき
  2. メンバーがそれを“弱さ”ではなく“誠実さ”として受け取ったとき
  3. 小さな共鳴が起こり、行動が自然に動き始めるとき

これは、The INNERSHIFT Way の本質と深くつながっています。

変化は、揺れから始まる。

そして、その揺れを受け止め、歩き直すこと。

それが、
IS360 が捉えようとしている“関係の現在地”の核心でもあります。

あなたの現場では、どんな揺れが起きているでしょうか。
その揺れを“問題”ではなく“変化の兆し”として捉え直せるとしたら──
動き出す一歩は、すでに始まっているのかもしれません。


📚 参考文献(英語論文は英語表記のまま)


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主体性はなぜ生まれないのか──関係がつくるリーダーシップの核心
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