ミンツバーグは、なぜ「リーダーシップ」を疑ったのか|INNERSHIFT

「上から見る経営」が当たり前になっている

現代の組織では、「リーダーシップ」という言葉が、とても強く語られるようになりました。

ビジョンを描くこと。戦略を示すこと。組織を方向づけること。

経営者は、高い視座から未来を示す存在として期待されます。

けれど、その一方で、ときどきこんな違和感もあります。

経営は、現場から遠くなっていないだろうか。

人との関わりよりも、KPIや株価や財務諸表が優先されるようになっていないだろうか。

ヘンリー・ミンツバーグによるDHBRのインタビュー「経営者に必要なのはエンゲージング・マネジメントである」では、まさにこの問題が語られています。

https://dhbr.diamond.jp/articles/-/6075

ミンツバーグが疑った「ロフティ・リーダーシップ」

ミンツバーグが批判しているのは、「リーダーシップ」そのものではありません。

彼が問題視しているのは、“ロフティ・リーダーシップ(lofty leadership)”です。

これは単に「高い視座」という意味ではなく、現場や人との関係から切断された、上空から組織を眺めるようなリーダーシップを指しています。

インタビューの中で彼は、MBA教育やCEO中心主義によって、経営が実践から離れていったことに強い違和感を示しています。

戦略を描く。グランドデザインを示す。財務を管理する。

もちろん、それらは重要です。

ただ、それだけでは、マネジメントは成立しない。

ミンツバーグは、そう考えているように見えます。

「エンゲージング・マネジメント」とは何か

その代わりに彼が提示するのが、“エンゲージング・マネジメント(engaging management)”です。

これは、「現場主義」という単純な言葉では説明しきれません。

重要なのは、現場に“関わり続ける”ことです。

ミンツバーグは、スティーブ・ジョブズの例を挙げています。

ジョブズは、CEO室で財務諸表ばかり見ていたわけではありませんでした。製品開発のラボに入り込み、実際に何が起きているかを見続けていた。

本田宗一郎や松下幸之助についても、同じように語られています。

ここでミンツバーグが評価しているのは、「カリスマ性」ではありません。

むしろ、現場から切断されなかったことです。

つまり、

・実際に起きていることを見る
・人と関わる
・細部に触れる
・一緒に動く

そうした実践の中に、マネジメントの本質がある、と。

アート、サイエンス、クラフト

今回のインタビューの中でも、特に印象的なのが、ミンツバーグが語る「アート・サイエンス・クラフト」の3要素です。

アートは、直感やビジョン、洞察。

サイエンスは、分析や秩序、評価。

そしてクラフトは、経験を通して培われる実践知です。

興味深いのは、彼が「すべて満点である必要はない」と語っていることです。

むしろ、職種や立場によってバランスは変わる。そして、一人で足りない部分は、チームで補い合えばよい。

ここには、「万能な理想のリーダー」を求めない視点があります。

誰か一人が、すべてを見通し、すべてを管理し、すべてを決定する。

そうしたリーダー像とは、少し違う。

むしろ、現場で経験しながら学び、他者と補い合いながら進んでいく姿に、マネジメントを見ているようにも感じます。

「more more」ではなく「better」

インタビュー後半で、ミンツバーグは、企業が「more more」を追い求めていることにも違和感を示しています。

もっと利益を。もっと株価を。もっと成長を。

しかし、その結果として、本来やるべきではないことまで行われてしまう。

だから彼は、「more more」ではなく、「better」を目指すべきだと言います。

より多くではなく、よりよく。

これは、単なる理想論というより、「何をよしとするのか」という問いに近いように感じます。

どれだけ成長したか。どれだけ拡大したか。

それだけではなく、

・よりよい製品
・よりよい仕事
・よりよい関係
・よりよい社会

を、どうつくるのか。

そこへ重心を戻そうとしている。

関係から切断されないために

ミンツバーグの話を読んでいると、彼が警戒しているのは、「リーダーシップ」そのものではないことが見えてきます。

むしろ彼が問題にしているのは、人や現場との関係から切断された経営です。

The INNERSHIFT Way の「シェアド・リーダーシップ──リーダーシップを分かち合うチームへ」でも触れているように、リーダーシップは、一人の正解を上から与えることだけではありません。

実際には、

・人と関わり
・現場で学び
・意味を更新し
・試行錯誤を続ける

そうしたプロセスの中で、少しずつ立ち上がってくることがあります。

だからこそ、ミンツバーグが警戒していたのは、「リーダーシップ」そのものではなく、“関係から切断されていく経営”だったのかもしれません。

参考文献

ヘンリー・ミンツバーグ(Henry Mintzberg)によるDHBRインタビュー「経営者に必要なのはエンゲージング・マネジメントである」

https://dhbr.diamond.jp/articles/-/6075

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