リーダーシップが効かない理由──現場で育つシェアド・リーダーシップ | INNERSHIFT

執筆:最上 雄太

会議で方向性を共有したはずなのに、動き出すのはごく一部のメンバーだけ。任せたつもりでも、気づけば自分が抱え込んでいる。そんな「リーダーシップが効かない感覚」は、多くの現場で起きています。

私の専門分野「シェアド・リーダーシップ」と聞くと、「新しい理論が海外から輸入されたもの」という印象を持つかもしれません。しかし、実際の核心はもっと人間的で、もっと日常的です。特別な技法ではなく、リーダーの在り方が関係をどう変えるかという極めて本質的なテーマが、その中心にあります。むしろ“導入する理論”と捉えた瞬間に、現場とのズレが生まれます。

学術研究や組織支援の現場でも、理論をそのまま適用しようとしてうまくいかないケースは多くあります。ですが、うまくいかなかったチームが「なぜ自分たちは動けないのか」を語り始めると、そこから思いがけない変化が起こります。チームが少しずつ、自分たちなりのやり方──**「うちではこういうふうにやる」**という関係のデザインを見つけ始めるのです。


理論は“正解”ではなく、現場を映すレンズである

多くの組織では、課題が生じると「新しい理論」や「成功事例」を探しに行きます。しかし、どんな理論でもそのまま持ち込めば、現場の複雑さに跳ね返されます。問題は理論の良し悪しではなく、理論をどんな“レンズ”として使うかです。

現場は、感情・歴史・価値観・関係の厚みが複雑に絡み合った、二つとして同じもののない「関係の場」。そこで必要なのは、“正解の手法”ではなく、関係をどう理解し、どんな動きを生むかを見立てる視点です。

この視点を大きく押し上げてくれるのが、Uhl-Bienが提唱する「Relational Leadership(関係的リーダーシップ)」です。ここではリーダーシップは「個人の能力」ではなく、人と人のあいだで生成される関係的プロセスとして捉えられます。これは、シェアド・リーダーシップの実践で可視化される現象と驚くほど一致します。


流行ではなく“関係の理解”としてのシェアド・リーダーシップ

シェアド・リーダーシップが“導入すべき理論”として扱われると、現場では形骸化します。しかし本質はそこではありません。これは“見つけるもの”に近い。つまり、外部にあるのではなく、現場の関係の中にすでに萌芽として存在しているということです。

拙著『シェアド・リーダーシップ入門』で取り上げた「挑戦者の会」でも同じでした。
当初は「役割分担が曖昧」「主体性が低い」といった人やスキルの問題として理解されていました。しかし、対話を重ねるなかで、問題の核心は
“うまくいかなさを語れない関係”
にあることが明らかになりました。

理論は、この“語れなさ”を見つけるレンズを与えてくれます。しかし、それを“語れる関係”に変えていくのは、現場の実践そのものです。

最終的に挑戦者の会では、メンバーが自分たちのうまくいかなさを受け入れ、語り合い、小さく整えていくプロセスそのものが、シェアド・リーダーシップとして立ち上がっていきました。


研究は地図、現場は地形──往復でしか見えないものがある

博士研究を進めていると、理論は美しく整理されています。しかし、実務現場に入った瞬間、その美しさは揺らぎます。組織特有の空気感、暗黙の序列、語られない本音──地図(理論)だけでは捉えきれない“地形(現場)”の厚みが立ち上がってくるのです。

このズレは、理論の限界を意味するのではありません。むしろ、ここにこそ実践知の入口があります。

「この理論を、現場のどの角度から使えば“関係の実相”が見えるのか?」

シェアド・リーダーシップは、研究と実務を往復する中で磨かれてきました。外から導入するモデルではなく、現場の地形を読み解くためのレンズとして育ってきたのです。


The INNERSHIFT Way──往復の中で育つリーダーシップ

あなたの現場では、どんな「地図」と「地形」のズレが起きているでしょうか。

そのズレを“理論が合わない”と片づけるのではなく、現場固有の関係を理解する入口として捉え直すとしたら──見えてくる一歩は大きく変わります。

シェアド・リーダーシップは、完成した手法ではありません。関係に耳を澄ませ、揺れを受け止め、歩き直すための往復運動です。その往復の中で初めて、「自分たちはどう在りたいのか」という関係の姿が立ち上がります。

この往復こそが
The INNERSHIFT Way の本質であり、
IS360 が捉えようとしている“関係の現在地”の核心でもあります。

現場で揺れながら、研究の視点と実務の経験を何度でも行き来すること。
その積み重ねの中で、あなたのチームだけの
**「こういうふうにやる」**が静かに育っていきます。

📚 参考文献(英語論文は英語表記のまま)


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主体性はなぜ生まれないのか──関係がつくるリーダーシップの核心
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