直感を説明できなければ、黙るしかないのか|INNERSHIFT

著者:最上 雄太

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「何かがおかしい」が言えない会議

会議で、新しい戦略案が提示される。

データも揃っている。市場分析も合理的に見える。周囲も納得していて、実行へ向けた空気ができている。

けれど、その場にいる誰かが、「何かがおかしい気がする」と感じている。

明確な根拠はまだ説明できない。どの数字が間違っているのかもわからない。ただ、どこかに引っかかりがある。

しかし、その感覚は会議の中で扱いにくい。

「うまくいかない気がする」だけでは、反対のための反対に見えてしまう。根拠が曖昧なまま口を開けば、場を止める人になってしまうかもしれない。

だから、多くの場合、その違和感は言葉になる前に消えていく。

HBRが語る「直感を翻訳する力」

メロディ・ワイルディング(Melody Wilding)による、ビジネススキルと意思決定に関する2026年のHBR記事「あなたの直観を周りの人に信じてもらう方法(How to Convince Others to Trust Your Instincts)」では、こうした場面が扱われています。

https://dhbr.diamond.jp/articles/-/13790

記事の中でワイルディングは、直感を「経験による無意識のパターン認識」と整理しています。

長く実務に携わる人ほど、「まだ説明できないけれど、何かが違う」という感覚を持つことがあります。それは非合理なものではなく、過去の経験や失敗、観察の蓄積から生まれる判断の兆しです。

そしてHBR記事では、その直感を周囲に伝えるための方法として、

・過去の類似ケースと比較する
・質問によって違和感を具体化する
・定性的なエピソードへ翻訳する
・小規模なテストを提案する

といったアプローチが紹介されています。

組織では、直感をそのまま提示しても受け入れられないことがあります。

「なんとなく嫌な予感がする」だけでは、意思決定の材料として扱われにくい。だからこそ、違和感を他者と共有可能な形へ翻訳する必要がある。

HBRの記事は、そのための実践的な整理として読むことができます。

直感より先に、違和感は消えているのかもしれない

興味深いのは、記事の後半で、直感を押し通すことよりも、

「少し時間を置いて考える」
「小さく試してみる」
「質問を通して整理する」

といった、対話を続ける方向へ重心が移っていくことです。

そこには、単に「自分の直感を信じさせる」というより、“まだ言葉になりきっていない感覚を、関係の中で扱い続ける”という姿勢も見えてきます。

ただ、その時に気になることがあります。

そもそも組織では、なぜ「説明できない違和感」は、ここまで扱われにくいのでしょうか。

多くの会議では、説明できることのほうが優先されます。

数字。根拠。結論。実行可能性。

もちろん、それらは重要です。

ただ、会議が「説明できるものだけ」を扱う場になっていくと、まだ意味づけされていない感覚は残りにくくなります。

「何かがおかしい」という感覚は、根拠不足として処理され、未熟な意見として流され、やがて沈黙になっていく。

その時、消えているのは、単なる“反対意見”ではないのかもしれません。

まだ整理されていない経験。言葉になりきっていない観察。他の誰も気づいていない小さなズレ。そうしたものまで、一緒に消えていることがあります。

「発言できること」と「違和感が残れること」

心理的安全性について語られる時、私たちはしばしば、「発言しやすい組織」という表現を使います。

けれど、本当に重要なのは、単に発言できることなのでしょうか。

The INNERSHIFT Way の「心理的安全性──声が出せる場は、偶然には生まれない」でも触れているように、重要なのは、正しい発言が歓迎されることだけではありません。

むしろ、

「まだうまく説明できない」
「整理できていない」
「確信はないけれど引っかかる」

そんな状態の言葉が、急いで処理されずに残れること。そのほうが、心理的安全性の本質に近い場面もあります。

Emotional Compassの24特性で言えば、たとえば「対話期待性」は、対話を通じて状況や理解が変わっていく可能性を信じる姿勢として定義されています。

また、「差異への耐性」は、自分とは異なる意見や価値観に出会った時、それをすぐ否定せず、関わり続ける力として整理されています。

ここで重要なのは、「正しいことを言える人」ではありません。

説明しきれない違和感が現れた時、それをすぐ結論へ回収せず、少し留まりながら扱い続けられる関係です。

違和感を消さないために

会議の中で、違和感はしばしば「ノイズ」として扱われます。

けれど、あとから振り返ると、組織が見落としていたものは、最初から誰かの中に存在していたことも少なくありません。

ただ、その時には、まだ言葉になっていなかった。

だからこそ、必要なのは、「直感を持つ優秀な人」だけではないのかもしれません。

むしろ、「何かがおかしい」という言葉が、完全な説明になる前に消されないこと。その違和感を、すぐ賛成・反対へ整理せず、関係の中で扱い続けられること。

そうした場が、これからの組織にとって、ますます重要になっていくのかもしれません。

参考文献

メロディ・ワイルディング(Melody Wilding)による、ビジネススキルと意思決定に関する2026年のHBR記事「あなたの直観を周りの人に信じてもらう方法(How to Convince Others to Trust Your Instincts)」

https://dhbr.diamond.jp/articles/-/13790

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