リーダーにも未来は分からない|AI時代のリーダーシップを考える |INNERSHIFT

著者:Yuta Mogami, Ph.D.

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「AIによって、自分たちの仕事がなくなるかもしれない」

先日、ある企業のリーダー研修で、そんな話になりました。

AIによって仕事の一部が置き換わる、という話だけではありません。

いま自分たちが提供している専門的なサービスそのものが、将来なくなるかもしれない。

では、そのとき別の仕事をすればいいのか。

そんな話の中で、ある人が「それならタクシーの運転手でもいい」と口にしました。

ところが、すぐに別の現実にぶつかります。

自動運転が進めば、その仕事だってどうなるか分からない。

話しているうちに、「AIから逃げられる仕事を探す」という発想そのものが難しくなっていきました。

そのとき、リーダーの一人がこんな趣旨のことを話しました。

「AIは、結局はツールです。ツール以上のものにはならないと思います」

私は、このやり取りが少し気になりました。

この言葉が正しいのか、間違っているのかが気になったわけではありません。

別のことが気になったのです。

その言葉は、彼らが感じていた不安に、本当に答えているのだろうか。

「仕事がなくなる」という不安

私は最初、この対話を「AIによって仕事を失うことへの不安」として捉えていました。

もちろん、それは大きな問題です。

しかし、関連する研究を調べていくと、それだけでは少し単純すぎるように思えてきました。

情報技術と人間との関係を研究するジェフリー・B・クレイグ(Jeffrey B. Craig)らは、ITとの関係の中で、自分の能力や自律性が脅かされる感覚を「ITアイデンティティ脅威(IT identity threat)」として捉えています。

また、AIを使った専門的な意思決定を研究したサラ・レボヴィッツ(Sarah Lebovitz)らは、放射線科医がAIを利用する現場を長期にわたって観察し、専門家がAIを前に、自らの専門的判断をどのように位置づけていくのかを明らかにしています。

さらに、リック・ワーデンバーグ(Rick Waardenburg)らによる警察組織へのAI導入の研究では、新しい技術が入ることで、それまで組織に蓄積されてきた専門知識の価値や位置づけそのものが変化していく様子が描かれています。

そう考えると、私は研修で聞いた言葉を、以前と同じようには聞けなくなりました。

「AIで自分の仕事がなくなるかもしれない」

その言葉のすべてを、失業への恐怖として理解してしまってよいのだろうか。

もしかすると、そこには、

「これまで身につけてきた専門性は、これからも価値を持つのだろうか」

「自分はこれから、何によって価値を生み出していけばいいのだろうか」

という、別の問いも含まれているのかもしれません。

もちろん、実際に彼らがそう考えていたと断定することはできません。

ただ、少なくとも私は、「仕事がなくなる」という言葉を、そのまま一つの意味に決めつけることができなくなりました。

リーダーは、何に答えているのか

ここで、もう一度あの言葉に戻ります。

「AIは結局ツールです」

仮に、この説明が正しいとします。

それでも、ひとつ疑問が残ります。

社員が、

「これから自分たちはどうなるのでしょうか」

と尋ねているとき、

「AIとは何か」を説明することは、その問いへの答えになっているのでしょうか。

組織研究には、センスメイキング(sensemaking)という考え方があります。

簡単に言えば、何が起きているのかが分からない状況で、人々が出来事を解釈し、「いま自分たちはどんな状況にいるのか」という意味をつくっていくプロセスです。

デニス・ジョイア(Dennis A. Gioia)とクマール・チッティペディ(Kumar Chittipeddi)は、組織変革の研究を通して、トップ自身が状況を意味づけるセンスメイキングと、その意味を周囲へ働きかけるセンスギビング(sensegiving)の双方を行うことを示しました。

また、サリー・メイトリス(Sally Maitlis)とトーマス・ローレンス(Thomas B. Lawrence)の研究では、問題が複雑で環境が曖昧な状況において、意味形成への働きかけが組織のさまざまな人々から生じ得ることが示されています。

つまり、トップが完成した答えを持ち、それを知らない人たちに伝える、という一方向の構図だけではありません。

トップ自身も、分からない世界の中にいるのです。

ここで、私の問いは少し変わりました。

リーダーは、未来を知っている人でなければならないのでしょうか。

答えが、まだ存在しない問題

この問いを考えるとき、ロナルド・ハイフェッツ(Ronald A. Heifetz)が提唱したアダプティブ・リーダーシップ(Adaptive Leadership)は、一つの手がかりになります。

この考え方では、「技術的問題」と「適応課題」を区別します。

技術的問題であれば、専門知識や既存の方法によって解決できることがあります。

知っている人が答えを示せばいい。

しかし、まだ答えそのものが分かっていない問題もあります。

それまでの知識を適用するだけでは解決できず、当事者自身が学び、考え方や行動を変えながら、新しい対応をつくっていかなければならない問題です。

AIによる仕事や専門性の変化のすべてを「適応課題」と呼べるわけではありません。

それでも、現在起きている変化の中には、この考え方で捉えることで見えてくるものがあるように思います。

どの仕事が残るのか。

AIはどこまで進むのか。

いま価値を持っている専門性は、5年後、10年後にも同じ価値を持っているのか。

おそらく、トップにも正確な答えはありません。

では、答えがないとき、リーダーにできることはないのでしょうか。

未来への「向き合い方」は示せる

ここで、経営学者のリタ・ガンサー・マグラス(Rita Gunther McGrath)とイアン・マクミラン(Ian C. MacMillan)が提唱した、ディスカバリー・ドリブン・プランニング(discovery-driven planning)という考え方がヒントになります。

もともとは、不確実性の高い新規事業などを計画するための考え方です。

将来を正確に予測して、その通りに計画を実行するのではありません。

何を前提としているのかを明らかにし、実際に行動しながら新しい情報を得て、その前提を確かめていく。

最初から正解を知っていることを前提にしない計画です。

これは、AI時代のリーダーシップについて提唱された理論ではありません。

それでも私は、ここに一つのヒントがあるように思います。

未来そのものを約束することはできなくても、

いま何が分かっていて、何がまだ分からないのか。

次に何を試すのか。

そこから何を学ぼうとしているのか。

そして、どこでいったん立ち止まり、もう一度判断するのか。

それなら、人々と共有することができます。

未来を示せないときにも、未来への向き合い方は示せる。

Leadershipとは、未来を知っていることなのか

ここまで考えて、私は最初の研修での対話に戻りました。

社員は、

「これから自分たちはどうなるのでしょうか」

と問う。

けれども、トップにも未来は分からない。

だからといって、リーダーが何も示せないわけではない。

未来を言い当てる代わりに、いま何が見えているのかを伝える。

次に何を試すのかを示す。

そして、人々と一緒に、そこから学んでいく。

そう考えると、私の問いはさらに変わります。

そもそも、Leadershipとは「未来を知っていること」によって成立するものだったのでしょうか。

私は、「Leadership Lives On.」という言葉を大切にしています。

これは、「リーダーシップは、人と人とのあいだで生まれ、育まれ、生き続ける」という意味です。

私は、この言葉について考え続けています。

今回、AIをめぐる現場の対話と研究の世界を行き来する中で、また一つ違う見え方が生まれました。

未来が分からなくなったから、Leadershipがなくなるのではない。

誰にも答えがないとき、人々がともに状況を理解する。

次の一歩を試す。

そこから学ぶ。

そして、また考える。

その過程にも、Leadershipは現れるのではないか。

答えを持つ人がいなくなっても、人と人とのあいだからLeadershipは生まれ続ける。

未来そのものを約束することはできなくても、未来への向き合い方は示せる。

それもまた、「Leadership Lives On.」という言葉が示しているものなのかもしれません。

未来が分からないとき、あなたはLeadershipをどこに見出すでしょうか。

参考文献

Craig, J. B., Thatcher, J. B., & Grover, V. (2019). The IT identity threat: A conceptual definition and operational measure. Journal of Management Information Systems, 36(1), 259–288. https://doi.org/10.1080/07421222.2018.1550561

Gioia, D. A., & Chittipeddi, K. (1991). Sensemaking and sensegiving in strategic change initiation. Strategic Management Journal, 12(6), 433–448. https://doi.org/10.1002/smj.4250120604

Heifetz, R. A. (1994). Leadership without easy answers. Harvard University Press.

Lebovitz, S., Lifshitz-Assaf, H., & Levina, N. (2022). To rely or not to rely: An ethnography of trusting and calculating in artificial intelligence-assisted decision making. Organization Science, 33(1), 126–148. https://doi.org/10.1287/orsc.2021.1549

Maitlis, S., & Lawrence, T. B. (2007). Triggers and enablers of sensegiving in organizations. Academy of Management Journal, 50(1), 57–84. https://doi.org/10.5465/amj.2007.24160971

McGrath, R. G., & MacMillan, I. C. (1995). Discovery-driven planning. Harvard Business Review, 73(4), 44–54.

Waardenburg, L., Huysman, M., & Sergeeva, A. (2022). In the land of the blind, the one-eyed man is king: Knowledge brokerage in the age of artificial intelligence. Organization Studies, 43(7), 1043–1065. https://doi.org/10.1177/01708406211030682

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