「マネジメントは続けること。リーダーシップは変えること」
先日、DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビューに掲載された「マネジメントとリーダーシップは何がどう違うのか」という記事を読み、この言葉が目に留まりました。
とても分かりやすい説明です。
組織を安定して動かし続けるのがマネジメントであり、そこに変化を起こすのがリーダーシップ。そう整理すれば、両者の違いは一気に理解しやすくなります。
けれども、リーダーシップを研究してきた立場から読むと、私は少し引っかかりました。
変えることだけが、リーダーシップなのだろうか。
実は、マネジメントとリーダーシップをどう区別するかという問題は、かなり以前から研究者たちが議論してきたテーマです。
その議論を少し遡ってみると、「続ける/変える」という二つの言葉だけでは見えにくい、リーダーシップ研究の長い変化が見えてきます。
マネジャーとリーダーは、違う「人」なのか
この議論を考えるうえで、一つの重要な論文があります。
1977年、ハーバード・ビジネス・レビューに「Managers and Leaders: Are They Different?(マネジャーとリーダーは違うのか)」という論文を発表したアブラハム・ザレズニック(Abraham Zaleznik)です。
ザレズニックは、ハーバード・ビジネス・スクールで長く組織や経営者の心理を研究した研究者です。
彼が問いかけたのは、タイトルの通りでした。
「マネジャーとリーダーは違うのか」
ザレズニックは、両者をかなり異なる人間として捉えました。
マネジャーとリーダーでは、動機も、これまでの人生経験も、考え方や行動の仕方も違う。目標との向き合い方や、人との関係の築き方まで異なると考えたのです。
現在から見ると、その分け方には議論の余地があります。
しかし重要なのは、半世紀近く前からすでに、「マネジメントとリーダーシップは何が違うのか」が大きな問いになっていたことです。
そして、その問いに別の角度から答えたのが、ジョン・P・コッター(John P. Kotter)でした。
コッターが分けたのは「続ける人」と「変える人」ではない
ジョン・P・コッター(John P. Kotter)は、組織変革やリーダーシップ研究で広く知られるハーバード・ビジネス・スクールの研究者です。
1990年、コッターは「What Leaders Really Do(リーダーが本当にすること)」を発表しました。
今回のDIAMOND ハーバード・ビジネス・レビューの記事も、この論文を議論の中心に置いています。
ただ、原論文を確認すると、一つ大切なことが分かります。
コッター自身が書いたのは、
“Management is about coping with complexity.”
「マネジメントとは、複雑性に対処することです。」
“Leadership is about coping with change.”
「リーダーシップとは、変化に対処することです。」
という区別です。
つまり、マネジメントは「複雑性に対処すること」、リーダーシップは「変化に対処すること」。
さらにコッターは、両者を、
“two distinct and complementary systems of action”
「異なるが、互いに補完し合う二つの行動システム」
と説明しています。
ここは重要だと思います。
コッターは、マネジメントよりリーダーシップの方が優れている、と主張しているわけではありません。
まして、「マネジャーは続ける人、リーダーは変える人」という二種類の人間に組織を分けたわけでもありません。
むしろ、複雑な組織をきちんと動かすことと、変化に対応して方向をつくること。その両方が必要だと考えていました。
そう考えると、「マネジメント=続ける/リーダーシップ=変える」という今回の記事の整理は、コッターの議論を実務家に伝わりやすい形へ、かなり単純化したものだと見ることができます。
分かりやすさという意味では、とても強い表現です。
ただ、問題はここからです。
本当に、そんなにきれいに分けられるのか
マネジメントとリーダーシップを概念として区別する。
それはできます。
では、現実の組織でも、その二つはきれいに分かれているのでしょうか。
この点については、その後もさまざまな議論が行われてきました。
その代表的な一人が、経営者や管理職が実際に何をしているのかを長年研究してきたヘンリー・ミンツバーグ(Henry Mintzberg)です。
ミンツバーグは、マネジメントとリーダーシップを切り離して考えることに強い疑問を投げかけました。
組織の現実を考えてみれば、この疑問はそれほど不思議ではありません。
部下を育てる。
チームの価値観を伝える。
仕事の進捗を確認する。
問題が起きれば修正する。
顧客の変化を感じ取る。
必要なら、これまでのやり方を変える。
一人の管理職が、一日の仕事の中でこうしたことを行っています。
では、どこまでがマネジメントで、どこからがリーダーシップなのでしょうか。
リーダーシップ研究を長年体系化してきたゲイリー・ユクル(Gary Yukl)も、マネジャーとリーダーを相互に排他的な存在として扱うことでは、管理職の複雑な現実を十分に捉えられないという問題を論じてきました。
現実の組織では、仕事を動かすこと、人との関係をつくること、そして変化に対応することが絡み合っています。
概念を区別することと、現実まで二つに分かれていることは同じではありません。
そして問いは、「誰がリーダーなのか」へ向かった
その後、リーダーシップ研究では、さらに大きな変化が起こります。
研究者たちは、「優れたリーダーとはどんな人なのか」だけではなく、
「そもそも、リーダーシップはどのように生まれるのか」
を考えるようになっていきました。
たとえば、シェアド・リーダーシップ(shared leadership)。
一人のリーダーだけではなく、チームの複数のメンバーのあいだで影響力が共有され、リーダーシップが生まれていく過程に注目します。
また、関係性の中からリーダーシップが形成される過程を研究してきたメアリー・ユール=ビエン(Mary Uhl-Bien)は、リーダーシップを特定の個人が所有するものだけではなく、人々の関係の中で生じる社会的なプロセスとして捉えました。
さらに、リーダーシップ・アズ・プラクティス(leadership-as-practice)の研究では、特別な役職者の大きな決断だけではなく、人々の日常的な実践の中でリーダーシップがどのように現れるのかが研究されています。
ここまで来ると、問いそのものが変わってきます。
「マネジャーとリーダーは違う人なのか」
から、
「マネジメントとリーダーシップは違う働きなのか」
へ。
そしてさらに、
「リーダーシップとは、一人のリーダーがすることなのか」
へ。
リーダーシップ研究が見ようとしてきた対象そのものが、広がってきたのです。
「変えない」ことは、リーダーシップではないのか
もう一つ、私が「続ける/変える」という区別に引っかかった理由があります。
組織にとって、本当に大切なものを守ることがあります。
経営理念を守る。
長く築いてきた信頼を守る。
短期的な流行に流されず、大切な価値を次の世代へ継承する。
それは、単なる現状維持なのでしょうか。
組織を制度として捉える研究の古典を築いたフィリップ・セルズニック(Philip Selznick)は、1957年の『Leadership in Administration(管理におけるリーダーシップ)』で、組織の価値やアイデンティティを守ることを、制度的リーダーシップ(institutional leadership)の重要な課題として論じています。
その後、組織制度論を研究してきたマシュー・S・クラーツ(Matthew S. Kraatz)も、組織に託された価値や正統性を守り、育て、次の世代へ引き継ぐ制度的スチュワードシップ(institutional stewardship)を、リーダーシップの問題として論じています。
もちろん、毎日同じ仕事を繰り返すことが、すべてリーダーシップになるわけではありません。
しかし少なくとも、
「変える=リーダーシップ」
「続ける=マネジメント」
と置いてしまうと、こうしたリーダーシップは見えにくくなります。
時には、周囲から変化を求められているからこそ、あえて守らなければならないものもあります。
反対に、大切なものを守るために、これまでの方法を大きく変えなければならないこともあります。
そう考えると、
変えるか、続けるか。
それ自体が、リーダーシップとマネジメントを分ける軸として十分なのだろうか。
私はそこに疑問を感じます。
30年以上の研究を経た現在から見ると
ここで、最初の記事に戻ります。
「マネジメントは続けること。リーダーシップは変えること」
この表現が分かりやすいことは間違いありません。
組織が管理や統制に偏り、変化を起こせなくなっているとき、「リーダーシップとは変えることだ」と伝えることには実務的な力もあるでしょう。
コッターが1990年に提示した問題意識にも、現在なお重要なものがあります。
だから私は、コッターの議論を否定したいわけではありません。
しかし、マネジメントとリーダーシップをめぐる研究は、その後も続いてきました。
現実の管理行動の中では、両者は絡み合っている。
リーダーシップは、公式な役職上のリーダー(formal leader)一人からだけ生まれるとは限らない。
人と人との関係や、複数の人々の日常的な実践から生まれることもある。
そして、変えることだけではなく、大切なものを意図的に守り、次の世代へ継承することにもリーダーシップはあり得る。
そうした研究の積み重ねを踏まえると、2026年の現在、リーダーシップを「続ける/変える」という二分法だけで説明することには、私は慎重でありたいと思います。
分かりやすい。
けれども、分かりやすさによって見えなくなるものもあります。
リーダーシップは、どこに生まれるのか
何を変えるのか。
何を守るのか。
誰が方向を示すのか。
誰が誰を動かすのか。
こうした役割をあらかじめ二つに分ける前に、私は、人と人とのあいだで何が起きているのかを見たいと思っています。
リーダーシップは、変革する誰かだけが持っているものなのだろうか。
それとも、変えるときにも、守るときにも、人々がともに方向を見いだしていく。
その過程から、リーダーシップは生まれるのだろうか。
私は、「Leadership Lives On.」という言葉を大切にしています。
これは、「リーダーシップは、人と人とのあいだで生まれ、育まれ、生き続ける」という意味です。
マネジメントとリーダーシップの違いを考えることは、結局のところ、「リーダーシップとは何なのか」をもう一度問い直すことなのかもしれません。
参考文献
Kotter, J. P. (1990). What leaders really do. Harvard Business Review, 68(3), 103–111.
Kraatz, M. S. (2009). Leadership as a sacred trust: Foundation for a secular theory of institutional stewardship. Research in Organizational Behavior, 29, 267–291. https://doi.org/10.1016/j.riob.2009.06.009
Mintzberg, H. (2004). Managers not MBAs. Berrett-Koehler Publishers.
Selznick, P. (1957). Leadership in administration: A sociological interpretation. Row, Peterson and Company.
児玉教仁. (2026, September 13). マネジメントとリーダーシップは何がどう違うのか. DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー. https://dhbr.diamond.jp/articles/-/14579
Uhl-Bien, M. (2006). Relational leadership theory: Exploring the social processes of leadership and organizing. The Leadership Quarterly, 17(6), 654–676. https://doi.org/10.1016/j.leaqua.2006.10.007
Yukl, G. (1989). Managerial leadership: A review of theory and research. Journal of Management, 15(2), 251–289. https://doi.org/10.1177/014920638901500207
Zaleznik, A. (1977). Managers and leaders: Are they different? Harvard Business Review, 55(3), 67–78.
