医師は、専門家であるだけでは足りないのか。|INNERSHIFT

著者:Yuta Mogami, Ph.D.

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医師は、専門家であるだけでは足りないのか。──地域医療における「役割期待」の研究から|INNERSHIFT

医師には、高度な専門知識と判断力が求められます。

病気を診断し、治療方針を決め、患者の健康と生命に関わる責任を引き受ける。その専門性は、医療を支える重要な基盤です。

しかし、患者を支える仕事は、医師の判断だけで完結するわけではありません。

看護師、薬剤師、ケアマネジャー、リハビリテーション専門職など、それぞれ異なる専門性を持つ人々が関わっています。特に地域医療では、患者の病気だけでなく、その人の生活を支えることも必要になります。

では、医師が専門家として責任を果たすことと、他の専門職が主体的に関わることは、どのように両立するのでしょうか。

医師に求められているのは、正しい判断をすることだけなのでしょうか。

日本の地域包括ケアを対象とした研究から、この問いを考えてみたいと思います。

1.医師は、他の専門職からどう見られているのか

2021年、春田淳志らは、日本の地域包括ケアに関わる医師以外の専門職が、医師の役割をどのように認識し、どのような役割を期待しているかを調査しました。

研究では、2019年1月に7つのフォーカスグループを実施し、参加者の語りを質的に分析しています。

この研究で重要なのは、医師の役割についての認識(Role Conception)と、医師に期待する役割(Role Expectation)を区別したことです。

前者は、参加者が医師をどのような存在として捉えているかを表します。後者は、医師にどのような役割を果たしてほしいと考えているかを表します。

研究で抽出された役割認識には、三つのテーマがありました。

一つ目は、伝統的な階層構造です。医師が他の専門職より上位に位置づけられるような関係が、参加者の語りに現れていました。

二つ目は、医師中心の生物医学モデルです。医師の役割が、病気の診断や治療を中心に捉えられていました。

三つ目は、批判的・自律的・閉鎖的といった個人的特性です。

これらは、研究参加者の語りから抽出された医師像であり、医師一般の性格や行動を示すものではありません。

また、本研究は医師自身の自己認識を直接調査したものではありません。あくまで、他の医療・ケア専門職が医師の役割をどのように捉えていたかを示しています。

では、その人々は医師に何を期待していたのでしょうか。

2.他職種が期待していたのは、専門性を手放す医師ではない

研究で抽出された役割期待にも、三つのテーマがありました。

第一に、フラットな組織における地域チームの一員であることです。

第二に、病気だけでなく心理的・社会的側面を含めて患者を理解する、生物・心理・社会モデルに基づく関わりです。

第三に、開かれた姿勢と相談しやすさを持つことです。

ここで注目したいのは、他職種が医師に対して、専門的な役割を放棄することを求めていたわけではないという点です。

例えば、患者が病院から在宅療養へ移るときには、医学的な説明や判断が必要になります。

患者の病状を理解し、今後の見通しを説明することは、医師の重要な役割です。

しかし、その説明が医療専門職の間だけで完結してしまえば、患者が自宅でどのように生活するのかという問題が、十分に扱われないかもしれません。

例えば、ケアマネジャーは生活環境や利用できる支援について、看護師は日々のケアにおける患者の状態について、薬剤師は薬物療法について、それぞれ異なる専門的な視点から情報を提供できます。

医師の判断は、こうした情報と結びつくことで、患者の生活を支える実践につながっていきます。

研究参加者が期待していたのは、医師の専門性を弱めることではなく、その専門性が他職種との協働のなかで発揮されることだったと考えられます。

これは、原著で報告された役割期待を踏まえた本記事の解釈であり、協働による医療成果の改善が実証されたという意味ではありません。

3.専門性が高いことと、協働できることは同じか

専門家には、専門家にしかできない仕事があります。

医師には医師の、看護師には看護師の、薬剤師には薬剤師の専門的な役割があります。資格や制度によって責任の範囲が定められていることも少なくありません。

だからこそ、専門職間の協働を、全員が同じ立場で同じ判断をすることと考えるべきではありません。

では、フラットな関係とは何を意味するのでしょうか。

それは、専門的な判断責任の違いをなくすことではなく、専門性の違いによって、他者の知見が軽視されない関係をつくることではないでしょうか。

例えば、医師が医学的に適切だと考える治療方針があったとしても、患者の生活環境や介護の状況によっては、その方針を実行することが難しい場合があります。

そのとき、他職種からの情報は、医師の判断に対する単なる補足ではありません。

患者にとって何が実現可能なのかを考えるための、重要な専門的知見です。

もちろん、最終的な医学的判断の責任がなくなるわけではありません。むしろ、責任ある判断をするためにこそ、自分とは異なる専門性を必要とします。

ここには、専門性について考え直す余地があります。

専門性は、他者より上に立つためだけのものではなく、他者とともに実現できることを増やすためにも存在する。

これは研究から直接導かれた実証結果ではなく、INNERSHIFTとして考えたい命題です。

専門家として優れていることと、その専門性が他者の仕事を支えていることは、必ずしも同じではありません。

専門的な知識や判断を、他の人々が自分の役割を果たすために活用できる形で共有すること。そこにも、専門家の重要な役割があると考えます。

4.医師の役割は、誰が決めるのか

医師の役割は、資格や制度によって定められます。

しかし、実際の医療現場で期待される役割は、それだけでは決まりません。

患者や家族が何を必要としているか。他の専門職がどのような情報や判断を求めているか。地域でどのような支援体制が整っているか。

そうした関係のなかで、医師に求められる働き方は具体的な形を持ちます。

春田らの研究では、参加者の語りに階層的で医師中心の役割認識が見られました。一方、役割期待としては、地域チームの一員として協働し、患者の生活全体を理解し、相談しやすい存在であることが示されています。

ただし、この違いを「医師自身の考えと他職種の考えが対立している」と読むことはできません。本研究は医師自身の自己認識と他職種の期待を直接比較したものではないからです。

それでも、この研究から実践的な問いを立てることはできます。

自分が果たしていると考える役割と、他者が必要としている役割を、どのように確かめ合えばよいのでしょうか。

例えば、医師が十分な説明をしたと考えていても、他職種は患者の生活に即した情報をさらに必要としているかもしれません。

反対に、他職種が医師に求める対応のなかには、診療上の制約や責任のため、すぐには実現できないものもあるでしょう。

こうした違いが生じたときには、まず互いに何を必要とし、何を担えるのかを具体的に確認することが重要になります。

医師は、自分の判断にどのような情報が必要なのかを伝える。他職種は、それぞれの専門的な視点から、患者の生活や支援に関する情報を共有する。そして、判断の責任と実践上の役割を確かめ合う。

これは、医師の権限を弱めるための対話ではありません。専門的な判断を、他職種の実践と結びつけるための対話です。

協働とは、専門職が集まっている状態だけを意味するのではありません。

異なる専門性を持つ人々が、互いの役割と期待を調整しながら、共通の仕事を進めていくことでもあるのです。

5.専門家としての責任を、関係のなかで考える

前回の記事では、小さなクリニックにおいて、院長とスタッフが近い関係にあっても、互いの考えを自由に伝えられるとは限らないことを考えました。

今回の焦点は、発言のしやすさだけではありません。さらに、その背景にある役割の理解と期待に目を向けたいと思います。

専門職が、それぞれの役割をどのように理解し、互いに何を期待しているのか。

春田らの研究は、日本の地域包括ケアに関わる医師以外の専門職を対象とした質的研究です。小規模クリニック内部の雇用関係を直接検証したものではなく、全国的な出現率や、役割期待が医療成果に与える因果効果を示したものでもありません。

その範囲を踏まえたうえで、私は、この研究が専門性とリーダーシップの関係を考える重要な手がかりになると感じています。

医師が医学的な責任を引き受けることと、他職種が主体的に患者を支えることは、どちらかを選ぶ問題ではありません。

例えば、患者の療養方針を検討するとき、医学的に何が必要かを判断するだけでなく、その方針を患者の生活のなかで実現するために、他職種からどのような情報や協力が必要なのかを考えることができます。

そこでは、医師が何を判断するのかと同時に、他の専門職が何を担い、どのような支援を必要としているのかを明らかにすることが重要になります。

専門家としての責任を果たしながら、他者がその専門性を生かせる関係をつくること。

医療組織だけでなく、さまざまな専門職組織に共通するリーダーシップの課題が、ここにあると考えます。

自分の専門性は、他者の仕事をどのように支えているでしょうか。

そして、自分に期待されている役割を、私たちはどれほど確かめ合えているでしょうか。

参考文献

Haruta, J., Goto, R., Ozone, S., & Maeno, T. (2021). What role conceptions do multi-healthcare professionals have of physicians and what role expectation do they have of physicians in a community? BMC Family Practice, 22, Article 217. https://doi.org/10.1186/s12875-021-01568-9


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