誠実性──違いと関わり続ける力が、信頼を育てるリーダーの姿

執筆:最上 雄太

違いに出会ったとき、誠実さが問われる

意見が食い違ったとき、あなたはどんな反応をしますか。すぐに自分の立場を守ろうとしたり、あるいは相手との距離を取ったり──。そんな瞬間にこそ、リーダーの誠実さが試されています。
誠実さとは、同意を求めることではありません。「わからないけれど、聞いてみよう」と一歩踏みとどまること。自分と異なる考えや価値観に触れたときに、関係を絶やさずに向き合う粘り強さの中に、本当の誠実さは宿ります。

Emotional Compassでは、本特性は関係管理(RM)因子に属します。

Emotional Compassでは、この特性を関係管理(Relationship Management/RM)因子に位置づけています。誠実性とは、違いを恐れずに関わり続ける力。それは、相手を理解しようとする静かな勇気であり、対立を避けることではなく、関係をつなぎ続ける選択なのです。
たとえば、会議で自分と正反対の意見が出たとき。「どうしてそう考えるのか、もう少し聞かせてください」と言える人がいます。その姿勢こそ、対話の信頼を守る“誠実なリーダーシップ”です。


痛みや違いに、心を閉ざさないということ

スーザン・ケイン(Susan Cain)は著書『静かな情熱(Bittersweet: How Sorrow and Longing Make Us Whole)』(2022年)で、誠実さとは「優しさ」や「同調」ではなく、痛みや違いに対して心を閉ざさない強さだと述べています。

“Real integrity is not about being kind all the time—it’s about being honest enough to stay open to what hurts and different.”
(本当の誠実さとは、常に優しくあることではなく、痛みや違いに対して心を閉ざさない正直さである。)

この言葉は、誠実性を「正しさ」や「共感」ではなく、“開かれた姿勢”そのものとして捉える視点を与えてくれます。
誠実であるとは、相手の考えにすぐに同意することではありません。むしろ、理解しきれないままに立ち止まり、相手の言葉の奥を探ろうとすること。その姿勢の中に、関係を続けようとする知的な優しさがあります。

ケインが語る「Bittersweet(ほろ苦さ)」という概念は、まさにこの誠実さの核心を示しています。リーダーシップの場面でも、意見の衝突や感情のすれ違いは避けられません。けれども、違いに触れたその痛みを拒まずに受けとめることで、信頼の関係はより深く、しなやかになっていくのです。

誠実さとは、他者の痛みを理解することではなく、理解できない痛みの存在を認め続けること。その静かな姿勢が、組織に「本音を語っても大丈夫」という空気を生み出します。


違いを超えて、関係をつなぎ続ける誠実さ

スーザン・ケインが語る“Bittersweet”の誠実さは、感情を抑えることではなく、違いの痛みと共にとどまる力です。この姿勢は、最上雄太(2025)『人を幸せにする経営』(国際文献社)で示されるリーダー像とも重なります。

最上はこう述べています。

「誠実とは、意見の一致を求めることではなく、違いを理解しようとする姿勢である。」

この言葉は、誠実性を“関係の持続力”として再定義しています。相手を変えようとするのではなく、「なぜそう思うのか」と問いながら共にいようとする姿勢。それが、信頼をゆっくりと育てていくのです。

リーダーシップとは、いつも正しい判断を下すことではなく、関係を絶やさない誠実さを選び続けること。その選択の積み重ねが、組織の文化を静かに変えていきます。

誠実な対話には、即答よりも沈黙が、説得よりも問いが必要なのかもしれません。違いの中にとどまり続ける勇気が、チームの信頼を深く結び直していくのです。
あなたは、どんな“違い”に誠実でありたいですか。


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参考文献


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