対話期待性──信頼を育てる、対話の力

執筆:最上 雄太

「本当にこれでいいのか?」と問い直す勇気

「本当にこれでいいのか?」
その問いを、自分に向けて投げかけたことはありますか。忙しさの中で判断を重ねていると、いつの間にか“正しさ”にしがみついてしまうことがあります。けれども、成長は「間違いを恐れない柔軟さ」からはじまります。

Emotional Compassでは、本特性は関係管理(RM)因子に属します。

対話期待性とは、自分の考えを見直す勇気です。相手を変えようとする前に、自分の前提を疑い、「もう一度聞いてみよう」と思える姿勢。それが、関係を深め、学びを生み出すリーダーの知性です。

Emotional Compassでは、この特性を関係管理(Relationship Management/RM)因子に位置づけています。対話期待性は、意見の違いにとどまらず、自分の内側を更新する力。「話せば何かが変わる」と信じ、柔軟に考えを調整できる人ほど、周囲の信頼を育てていきます。


正しさよりも、明晰さを選ぶ思考

ジュリア・ガレフ(Julia Galef)は『スカウト・マインドセット(The Scout Mindset)』(2021)でこう述べています。

“The goal is not to be right, but to see clearly.”
(目的は正しさを示すことではなく、より明晰に見ることである。)

ガレフが提唱する「スカウト・マインドセット」とは、自分の信念を守る“兵士の思考(Soldier Mindset)”ではなく、現実をありのままに観察し、情報を更新し続ける“偵察者の思考”のことです。

彼女は言います。「スカウトのように考える人は、勝つことよりも、理解することに関心を持つ」。この姿勢は、リーダーシップにおける“対話期待性”の本質そのものです。

私たちはしばしば、「自分の意見を通す」ことを信頼や責任と混同してしまいます。しかし、本当の信頼は、「間違っているかもしれない」と認められる柔軟さから生まれます。その柔軟さこそが、他者の声を引き寄せ、関係を深める土壌になるのです。

スカウト・マインドセットのリーダーは、意見を変えることを恐れません。むしろ、「変わることができる自分」を信じています。それは、判断の放棄ではなく、新しい理解への開放です。

対話期待性とは、「正しさ」に固執する代わりに、より広い視野で世界を見直す柔らかい知性のこと。ガレフの言葉を借りれば、リーダーの成長は“勝ち負け”ではなく“明晰さ”にあるのです。


自分を見直すことは、信頼を築く強さである

ジュリア・ガレフが説く“スカウト・マインドセット”は、「間違っているかもしれない」と認める勇気を肯定する思考法です。それは、リーダーにとっての弱さではなく、むしろ信頼を育てる誠実な柔軟さです。

最上雄太(2025)『人を幸せにする経営』(国際文献社)でも、こう述べられています。

「自分の考えを見直すことは、弱さではなく、信頼を築く強さである。」

リーダーが「正しい答えを持っている人」である必要はありません。大切なのは、「新しい答えを共に探せる人」であること。一度決めた方針を見直したり、若手の提案を受け入れたりする柔軟さの中に、チームは“信頼できる変化”を感じ取ります。

対話期待性とは、「変われる自分を信じる勇気」。それは、自分を疑うことではなく、より広い理解へと開かれる行為です。学びを続けるリーダーほど、信頼の循環をつくり出していきます。

変化の時代に必要なのは、完璧な答えではなく、見直すことを恐れない姿勢です。
あなたは今、どの考えをもう一度見直しますか。


🔗 関連記事:差異への耐性──わからなさを抱えながら、対話を信じるリーダーシップ


参考文献


✨ INNERSHIFTからのお知らせ

📘 公式サイト:innershift.jp
✍️ JOURNAL:innershift.jp/journal
🧭 Emotional Compass(2025年秋公開予定):innershift.jp/compass
🎥 YouTubeチャンネル:INNERSHIFT Channel
💼 LinkedIn:Yuta Mogami
🐦 X(旧Twitter):INNERSHIFT_JP
📘 Facebookページ:INNERSHIFT

関連記事

このページに関連する特集記事をご紹介いたします