感情をデザインするリーダーシップ──共感とEQで信頼を生む力|INNERSHIFT

執筆:最上 雄太

感情をどう扱うかは、リーダーの成熟度を映す鏡である

感情を抑え込むことでも、ただ率直に吐き出すことでもなく、状況や相手の心情を読み取りながら、自らの感情を意識的にデザインする。
それが、リーダーに求められる感情表現の成熟したかたちです。

Emotional Compassでは、本特性は自己認識(SA)因子に属します。

リーダーは組織における「感情の発信源」。
その感情の使い方次第で、チーム全体の雰囲気や信頼関係は大きく変わります。

Emotional Compassにおいて、この力は 自己認識(Self-Recognition) の中核に位置づけられます。
自分の感情を理解し、他者に伝わる形で整えることができるリーダーほど、共感と明確さを両立させたコミュニケーションを実現できるのです。

成熟したリーダーは、感情を制御するのではなく、「共感の質」と「伝え方の品格」を磨きながら、チームの信頼を育てていきます。
その姿勢こそが、感情をデザインするリーダーシップの本質です。


感情をデザインするということ

心理学的には、感情をコントロールするのではなく「再評価(reappraisal)」する力が高いリーダーほどストレスに強く、チームの安定性を高めることが知られています(Gross, 1998)。
感情を再評価するとは、出来事を新しい意味づけで捉え直すことで、感情のエネルギーを建設的に変換するリーダーシップ行為です。

また、エドモンソン(Edmondson, 2019)の研究では、リーダーが自らの感情を誠実に共有することで、心理的安全性が促進されることが示されています。
これは、感情の「正直な共有」が弱さの表明ではなく、信頼の基盤を築く勇気の表現であることを示しています。

感情を隠すのではなく、意図をもって表現すること。
その一つひとつの言葉が、信頼を織り上げる糸となります。


リーダーとしての意義

最上(2025)『人を幸せにする経営』では、「感情の品格」を持つリーダーが、組織文化の“静かな支柱”になると述べられています。
この「品格」とは、感情を抑圧するのではなく、状況に応じて最も建設的な形で表現する感性のことです。

また、最上(2022)『シェアド・リーダーシップ入門』では、チーム内の感情的エネルギーを共有し、リーダーが一方的に語るのではなく、感情の輪郭を共に描く関係性が重要であると強調されています。
リーダーの感情は、個人の内面ではなく、チームの集合的な感情資本として扱われるべきだという視点です。

成熟したリーダーとは、自らの感情を「正しく扱う責任」を引き受ける存在です。
怒りを方向づけ、悲しみを共感に変え、喜びを共有の力に変える。
その姿勢が、チーム全体の感情を統合し、人々が安心して力を出し合える場を生み出します。


まとめ

感情を扱う力は、単なる共有にとどまらず、やがて組織全体を統合する力へと成熟していきます。
リーダーが自らの感情を意図的にデザインすることで、組織には静かな安定と明るい推進力が生まれるのです。


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参考文献

Gross, J. J. (1998). The emerging field of emotion regulation: An integrative review. Review of General Psychology, 2(3), 271–299.

Edmondson, A. (2019). The Fearless Organization: Creating Psychological Safety in the Workplace for Learning, Innovation, and Growth. Wiley.

『人を幸せにする経営』(最上雄太, 2025, 国際文献社) → Amazonリンク

『シェアド・リーダーシップ入門』(最上雄太, 2022, 国際文献社) → Amazonリンク

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