言いたいことがあったのに、結局言えなかった——そんな経験はありませんか。
相手を傷つけたくない、自分の感情を見せるのが怖い。
そうして言葉を飲み込んだあと、どこかに小さな後悔が残る。
けれど、感情を抑えることが必ずしも正解ではありません。
正直な気持ちを伝えることでこそ、信頼が生まれることがあります。
「うれしかった」「悔しかった」——その一言が、関係を変えるきっかけになるのです。
それが、「感情表現力」のはじまりです。
感情表現力とは、自分の感情を認識し、素直に言葉にして伝える力。
感情を押し殺すのではなく、分かち合うことが、対話と信頼の土台をつくります。
Emotional Compassでは、本特性は自己認識(SA)因子に属します。
リーダーとは、自分の内側を見つめ、その感情を正直に表現することで、人との信頼を育てていく存在です。
感情は「生まれるもの」ではなく「つくられるもの」
心理学者リサ・フェルドマン・バレット(Barrett, 2017)は、『How Emotions Are Made(感情はどのように創られるのか)』の中で、感情は生理的反応の結果ではなく、脳が状況をもとに構築する“予測的な概念”であると説きました。
つまり、私たちは「怒り」や「悲しみ」を受け取るのではなく、それらを自ら“意味づけて生み出している”ということです。
この視点は、「感情が勝手に湧き上がるもの」という従来の理解を大きく覆します。
怒りも悲しみも、単なる反応ではなく、“自分の経験や価値観が形づくる認知の結果”なのです。
たとえば同じ出来事でも、ある人にとっては「挑戦への期待」として、別の人にとっては「不安」として感じられる。
感情とは、私たちの内側の“意味づけ装置”がつくり出す、いわば思考と身体の共同作品なのです。
この考えに立てば、感情を言葉にすることは、自分の内側を理解し直すことに等しい行為です。
「何を感じているのか」「なぜそう感じたのか」を丁寧に言語化することで、感情を抑えるのではなく、状況に応じて巧みに活用していくという視座——それがEQリーダーシップのスタンスに立つことができます。
感情を分かち合うリーダーは、信頼を生み出す
最上雄太(2022)『シェアド・リーダーシップ入門』(国際文献社)では、「感情を分かち合うことが、共創の出発点である」と述べられています。
リーダーが自分の感情を抑え込むのではなく、誠実に共有することで、チームは安心し、互いの関係が深まっていく。
感情を開くことは、単なる弱さの表出ではなく、信頼を生む勇気の証なのです。
私たちはしばしば、「感情を見せる=不安定」と考えがちです。
しかし本当のリーダーシップとは、感情をコントロールすることではなく、感情を通して他者とつながることにあります。
感情の透明性は、共感を呼び、チームの一体感を育てる基盤となるのです。
伝えることから、信頼が始まる
リーダーは、強く見せる必要はありません。
むしろ、自分の内側にある本音を言葉にすることで、人はあなたの真意を感じ取ります。
「大丈夫」と取り繕うよりも、「いまは不安だけど、やってみたい」と言える誠実さが、チームに信頼と希望をもたらす。
感情表現とは、自分の弱さをさらすことではなく、自分の存在を正直に伝えること。
それが、リーダーシップの最初の勇気です。
あなたは、どんな感情をまだ言葉にできずにいますか?
参考文献
- Barrett, L. F.(2017)『How Emotions Are Made: The Secret Life of the Brain』(Houghton Mifflin Harcourt)
- 最上雄太(2022)『シェアド・リーダーシップ入門』(国際文献社) → https://amzn.to/3WCB2cB
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