境界を保つという優しさ──関係に余白をもたらすリーダーシップ | INNERSHIFT

執筆:最上 雄太

人との距離をどう取るかは、優しさの形を決める問題です。相手に寄り添おうとするあまり、気づけば自分が疲弊してしまう――そんな経験は、誰にでもあるのではないでしょうか。
境界保持力とは、相手の感情に巻き込まれすぎず、健やかな距離を保つ力です。冷たさではなく、無理せず関わり続けるための“こころの余白”をつくる力。この余白があるからこそ、人は長く関わり合えるのです。

Emotional Compassでは、本特性は自己管理(SM)因子に属します。


距離を描く力が、関係を守る

感情を共有することは大切ですが、共感が過剰になると「巻き込まれ」へと変わります。相手の痛みをそのまま自分の中に取り込むと、リーダー自身の心が揺らぎ、判断を誤ることがあります。
リーダーに求められるのは、冷たく突き放すことではなく、自分の内側を守りながら関わる距離の知性です。境界保持力は、他者との関係を断つためではなく、健やかに続けるための“見えない線”なのです。


関係を支える「しなやかな線」

社会心理学者ミカエル・アシュフォース(2000)は、人が仕事と私生活のあいだで境界をどのように管理しているかを論じました。人は、境界を曖昧にしすぎると疲弊し、固めすぎると孤立する。重要なのは、状況に応じて柔軟に線を引き直す力だと述べています。
この考え方は、感情の領域にもあてはまります。他者の感情を感じながらも、それを「自分ごと」として抱え込みすぎないこと。境界とは、関係を切る線ではなく、関係を守る線なのです。


余白が信頼を育てる

最上雄太(2025)『人を幸せにする経営』(国際文献社|https://amzn.to/4n7WstO)は、「人と人のあいだには、信頼を育てるための“余白”が必要だ」と述べています。
リーダーがすべてを抱え込もうとせず、受け取ることと受け流すことの境界を理解したとき、チームには落ち着いた空気が生まれます。感情に巻き込まれないリーダーは、場の安心を保つ人です。境界保持力とは、関係を長く続けるための優しさの形式であり、成熟した自己管理(Self-Management)の象徴でもあります。


境界を保つという優しさ

誰かの感情に巻き込まれそうなときは、まず「自分の輪郭」を感じてみてください。呼吸に意識を戻し、「これは自分の感情?それとも相手のもの?」と静かにたずねる。その一呼吸が、関係を守る最初の行動です。
ときに優しさは、距離をなくすことだと誤解されます。しかし、本当の優しさは、相手の感情を自分の中に溶かし込まない勇気にあります。互いの違いを保ったまま、そばにいる。その姿勢が、関係を長く健やかに保つ力となるのです。
次に誰かの感情を受けとめる瞬間が来たとき、あなたはどんな距離を選びますか。


参考文献


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