前回の記事では、EQとリーダーシップをめぐる議論の参照点として、ダニエル・ゴールマンの論文がどのような位置に立ってきたのかを確認しました。
そこでは、ゴールマンの理論が結論や完成形としてではなく、問いの起点として扱われてきたことが示されていました。
▶ 前回記事:https://innershift.jp/emotional-compass/core/why-daniel-goleman-paper/
続く本記事では、その理論の評価や詳細に進む前に、ゴールマンが一貫して前提としていた人間理解──
リーダーシップを語る以前に、すでに成り立っている構造に目を向けていきます。
行動は、いつも結果として現れている
リーダーシップは、行動として語られることが少なくありません。
発言の内容、意思決定の速さ、周囲への関わり方。私たちは、目に見える振る舞いを通して、その人のリーダーシップを捉えようとします。
しかし、行動は常に最初に起きている出来事ではありません。
どの行動も、それが表に現れる前に、すでに何かを引き受けた結果として現れています。
行動の重要性が否定されるわけではありません。
ただ、行動だけに視線を置くと、その手前で起きていることは見えにくくなります。
判断の前に、すでに動いているものがある
人は、完全に中立な状態から判断を始めているわけではありません。
状況に直面した瞬間、意識的に考え始めるよりも前に、情動的な反応が立ち上がっていることが知られています。
これは、感情が理性の妨げになる、という意味ではありません。
判断や思考は、常に何らかの情動反応を土台として進んでいる、という理解です。
Daniel Golemanが繰り返し示してきたのも、この前提でした。
人はまず反応し、その上で考える。
その順序は、意志や努力によって簡単に切り替えられるものではありません。
感情の起点は、個人の内側に閉じていない
こうした情動反応は、個人の内側で完結するものではありません。
感情は、無意識のうちに表情や声のトーン、身振りといった形で外に表れます。
その変化は、周囲の人に模倣や同調を通じて伝わっていきます。
意図せず、自動的に、感情は人から人へと広がります。
この意味で、感情の「内側」と「外側」は切り離せません。
個人の内面で生じた反応は、そのまま関係の中に持ち込まれ、場の空気を形づくっていきます。
それでも「自己認識」が問われる理由
それでは、なぜここで「内側」に視線を向ける必要があるのでしょうか。
その中心に置かれるのが、自己認識という視点です。
自己認識は、感情を操作したり、望ましい状態に整えたりするための技術を指す言葉ではありません。
また、自分を正確に評価できるかどうか、という能力の話に限られるものでもありません。
ここで問われているのは、
自分の内側で生じている反応が、どのような形で判断や関係に影響しているのかという構造です。
この点について、最上雄太(2008)は、
リーダーシップの発揮を支える源泉として、
行動やスキルの手前にある自己認識のプロセスに注目する仮説を提示しています。
当時、この視点は十分な実証研究に支えられていたとは言えません。
しかし、感情が判断に先行し、その影響が関係の中へと広がっていくという前提に立つとき、
リーダーシップの起点を自己認識に求める視線は、自然に立ち上がってきます。
リーダーシップを考えるための、ひとつの立脚点
EQリーダーシップ®は、行動やスキルを起点として思考を組み立てる立場ではありません。
また、感情を管理や制御の対象として扱う立場でもありません。
感情は、すでに影響を及ぼしている。
自己認識は、その影響がどこから立ち上がっているのかを捉えるための視点である。
この前提に立つとき、
リーダーシップは、行動の良し悪しだけでは捉えきれないものとして見えてきます。
参考文献
最上雄太(日本語)
- 最上雄太(2008)
「感情コンピテンス・アプローチの提言」
多摩大学大学院ヒューマンリソースディベロップメント研究会 編
『ヒトがいきる経営』学文社─ 修士論文を基に、リーダーシップの源泉を自己認識のプロセスに求める仮説を提示した論考。
当時は実証段階に至っていなかったが、感情とリーダーシップを結びつける視点を早期に言語化している。
Daniel Goleman(英語)
- Goleman, D. (1995). Emotional Intelligence: Why It Can Matter More Than IQ. Bantam.
- Goleman, D. (1998). Working with Emotional Intelligence. Bantam.
- Goleman, D., Boyatzis, R., & McKee, A. (2002). Primal Leadership. Harvard Business School Press.
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