EQ(Emotional Intelligence)という言葉が、ビジネスの文脈で語られるとき。
多くの場合、その参照点として一つの論文が挙げられます。
──「EQが高業績リーダーをつくる」。
この論文は、EQとリーダーシップの関係をめぐる議論の出発点として、長く読み継がれてきました。同時に、「EQ=ゴールマン」という短絡的な理解を生みやすい文脈をつくってきたのも事実です。
本記事では、
なぜこの論文が、いまもEQとリーダーシップを考えるうえで参照点として語られ続けているのかを紹介します。
ダニエル・ゴールマンは、感情知性(Emotional Intelligence, EQ)という概念を、学術研究とビジネスの文脈を往復しながら広めてきた心理学者・著述家です。
1990年代以降、EQを「個人の性格特性」ではなく、仕事やリーダーシップの成果と結びつく能力群として捉える視点を提示し、多くの議論の参照点となってきました。
本記事で扱う論文「EQが高業績リーダーをつくる」は、
そうした議論の中でも、企業におけるリーダーの業績とEQの関係を、実証的に検討した代表的な論考の一つです。
なぜ今もなお「ダニエル・ゴールマン論文」なのか
この論文が繰り返し参照される理由は、単にEQという言葉を広めたからではありません。
ゴールマンがこの論文で提示したのは、
「優れたリーダーとは誰か」という問いを、
性格論や資質論ではなく、業績との関係から捉え直す視点でした。
リーダーのスタイルは多様であり、
状況によって求められる振る舞いも異なる。
それでもなお、高業績のリーダーたちには共通点があるのではないか。
EQが注目されたのは、
「人として優しいから」「感じがいいから」ではなく、
業績という現実的な基準との関係で語られたからです。
ゴールマン論文は、何を問い、どう調べたのか
この論文の特徴は、研究の進め方にもあります。
ゴールマンは、特定の理論モデルを先に置くのではなく、
企業で実際に用いられていたコンピテンシー・モデルに目を向けました。
企業の現場において、
- どのような能力が
- どの階層で
- どの程度、業績に寄与しているのか
を比較・分析していきます。
その過程で、能力は大きく三つに整理されました。
- 技術的熟練度
- 知的能力(IQ)
- EQに相当する能力
この記事では、
IQや専門スキルが否定されているわけではない、という点にも触れておきます。
それらはリーダーになるための前提条件として必要とされる。
ただし、それだけでは「高業績」を説明しきれない。
この問いの立て方が、EQを補足的な要素ではなく、
リーダーシップを考えるための中核へと押し上げました。
ゴールマンが示したEQの5因子
この論文では、EQを次の5つの因子として整理しています。
- 自己認識
- 自己規制
- 動機づけ
- 共感
- 社会的技術
ここでは、それぞれの因子の意味や機能には踏み込みません。
論文の中で示されている枠組みとして、名称と全体像のみを確認します。
重要なのは、
ゴールマンがEQを「単一の能力」ではなく、
複数の側面からなる能力の集合として提示したという点です。
Emotional Compassは、この論文をどう位置づけているのか
ここまで見てきたように、
ダニエル・ゴールマンの論文は、
EQとリーダーシップを結びつけるうえで、非常に強い問いを提示しました。
Emotional Compass においても、この論文は
EQをリーダーシップの文脈で考えるための重要な参照点の一つです。
ただし、それは
この論文の枠組みをそのまま採用している、という意味ではありません。
また、
この論文によってEQが「説明し尽くされた」と考えているわけでもありません。
ここで重要なのは、
ゴールマン論文が示したのが答えではなく、
その後の検討を要請する問いの構造だったという点です。
この論文は、
- リーダーの資質を性格論に回収しないこと
- 業績という現実的な基準から能力を捉え直すこと
- EQを単一の特性ではなく、複数の因子の集合として扱うこと
といった論点を明確にしました。
一方で、
その枠組みをどのように再整理し、
どの水準で実践や評価と結びつけていくのかについては、
後続の検討に委ねられています。
Emotional Compass は、
この「委ねられた部分」に向き合うための枠組みとして構築されています。
どの問いが引き継がれ、
どの点が再検討の対象となったのか。
そのプロセスについては、
次の記事であらためて整理していきます。
参考文献
Daniel Goleman(英語)
- Goleman, D. (1995). Emotional Intelligence. Bantam.
─ 感情知性(EQ)という概念を広く知らしめた代表作。心理学研究と一般読者をつなぐ役割を果たした。 - Goleman, D. (1998). Working with Emotional Intelligence. Bantam.
─ EQを職場・組織・リーダーシップの文脈で再整理した書籍。 - Goleman, D. (1998). What Makes a Leader? Harvard Business Review.
─ 企業のコンピテンシー・モデル分析を通じて、EQと高業績リーダーの関係を検討した論文。
ダニエル・ゴールマン(日本語)
- ダニエル・ゴールマン著/土屋京子訳
『EQ こころの知能指数』講談社 - ダニエル・ゴールマン著/梅津祐良訳
『ビジネスEQ 感情コンピテンスを仕事に生かす』東洋経済新報社刊
※著者はラトガース大学を拠点とする
The Consortium for Research on Emotional Intelligence in Organizations の共同ディレクターを務め、
近年は Building Blocks of Emotional Intelligence(全12冊)などを通じて、EQ能力の体系化と教育にも取り組んでいる。
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