部下の仕事ぶりについて、伝えなければならないことがある。
納期が守られなかった。相談が遅れた。同じ問題が繰り返されている。
それでも、いざ本人を前にすると、言葉を選びすぎてしまうことがあります。
「今は忙しそうだから、もう少し様子を見よう」
「せっかく頑張っているのに、意欲を失わせたくない」
相手を思いやって、言葉を飲み込むこともあるでしょう。
けれど、理由はそれだけでしょうか。
関係が悪くなるのが怖い。反発されたくない。あるいは、自分の判断が本当に正しいのか、確信が持てない。
そうした気持ちが重なり、必要な指摘を先送りにすることもあるかもしれません。
一方で、思い切って率直に伝えたところ、相手が黙り込んでしまうこともあります。
相手を傷つけたくない。けれど、伝えないままでよいとも思えない。
リーダーは、優しいだけではいられないのでしょうか。
優しいリーダーは、誠実なのか
相手の気持ちを考えることは大切です。
部下が置かれている状況や、これまでの努力を知らずに指摘すれば、必要以上の負担を与えるかもしれません。優しさは、決して否定すべきものではありません。
ただ、同じように「言わない」という行動を選んでも、その背景にあるものは一つではありません。
相手が受け止められる状況を考えて、伝える時期や方法を選ぶこともあります。
反対に、自分が気まずい思いをしたくなくて、話し合いを避けていることもあるでしょう。
そして、自分の見立てに自信が持てず、伝える前に事実を確かめる必要がある場合もあります。
大切なのは、指摘をためらった自分を責めることではなく、なぜためらっているのかを確かめることではないでしょうか。
仕事の進め方に問題があると気づきながら伝えなければ、部下は改善の機会を得られず、周囲の負担が増えるかもしれません。
もちろん、指摘すれば必ず成長につながるわけでもありません。
目の前の気まずさを避けることと、相手のこれからを大切にすることは、必ずしも同じではないのです。
では、相手を尊重しながら必要なことを伝えるには、何を考えればよいのでしょうか。
本音を語ることと、誠実であることは違う
「私は思ったことを正直に言う」
そう語るリーダーもいるでしょう。
自分の考えを隠さないことには、確かに意味があります。相手に合わせて言葉を変え続ければ、何を大切にしているのかが伝わらなくなることもあります。
しかし、本音をそのまま口にするだけで、誠実になれるわけではありません。
「どうして、こんなこともできないのか」
そう感じたとしても、その言葉を相手にぶつけることと、仕事上の問題を明らかにすることは別です。
必要なのは、自分の感情をなかったことにすることではなく、何を伝える責任があるのかを考えることではないでしょうか。
オーセンティック・リーダーシップを考えるときにも、自分らしさ、内面の価値観と行動の整合、他者への向き合い方を、すべて同じ意味の「誠実さ」にまとめてしまうことには注意が必要です。
率直であることも、優しくあることも、それだけでは十分ではない。
相手に何を伝え、その後の関係にどう向き合うのか。そこまで含めて考えたいのです。
意見が対立することは、関係を壊すのか
仕事の進め方について意見が違うとき、私たちは対立そのものを避けようとすることがあります。
しかし、仕事について異なる考えを持つことと、相手という人間を否定することは同じではありません。
組織内の対立を研究したKaren A. Jehn(1995)は、仕事の内容や考え方をめぐる対立(Task Conflict)と、メンバー間の緊張や反感などを伴う関係上の対立(Relationship Conflict)を区別して論じています。
この研究について、今回参照した検証資料では、仕事上の対立が常に有益なわけではなく、その影響は仕事の性質や状況によって異なり得ることも指摘されています。原典との直接照合は、なお必要です。
この概念上の区別を、部下への指摘に当てはめて考えてみます。
「この進め方では納期に間に合わないと思う」
これは、仕事の進め方についての判断です。
一方で、
「あなたはいつも無責任だ」
と伝えれば、問題は仕事の進め方だけにとどまらなくなります。
ただし、現実の会話は、これほど明確に分かれるとは限りません。
上司は仕事上の問題を指摘したつもりでも、部下には「自分の能力や人柄まで否定された」と伝わることがあります。反対に、上司が十分に配慮して言葉を選んでも、受け止め方が一致するとは限りません。
ここからは、研究の直接的な実証結果ではなく、職場での関わり方についての考察です。
何を伝えるかを明確にすることは重要です。同時に、それが相手にどう伝わったかを確かめることも必要ではないでしょうか。
「今の話を、どう受け止めた?」
そう尋ねることで、互いの理解が違っていることに気づく場合もあります。
Jehnの研究は、上司と部下の一対一の面談における具体的な言葉遣いの効果を検証したものではありません。ここでの問いは、その研究から考えるための実践上の視点です。
対立をなくすことだけを目指すのではなく、何について意見が違い、相手にどう届いているのかを考える。
その姿勢が、必要な指摘と相手への尊重を両立させる手がかりになるのではないでしょうか。
違いがあっても、相手と向き合えるか
必要なことを伝えたあと、相手が納得しないこともあるでしょう。
「そのやり方では難しいと思います」
そう返されたとき、リーダーはどう応じるでしょうか。
自分の判断を説明し直すことも必要です。ただ、それと同時に、相手がなぜそう考えたのかを聞く余地も残せます。
相手の事情を聞いたからといって、判断を変えなければならないわけではありません。
意見が一致しなくても、相手の考えを一つの考えとして受け止めることはできます。
Emotional Compassでは、他者との関係に関わる特性の一つとして「誠実性」を位置づけています。
この記事でも、誠実さを自分の内側だけで完結するものではなく、他者との関係のなかで問い直してみたいと思います。
自分は正しいことを言ったのか。
それだけでなく、相手が何を考え、どう受け取ったのかにも関心を向けているでしょうか。
言うべきことを言い、その先の関係にも責任を持つ
必要な指摘をするとき、私たちは二つの責任のあいだで迷います。
伝える責任と、相手を尊重する責任です。
けれど、その二つは、必ずしもどちらか一方を選ぶものではないはずです。
まず、仕事上の何が問題なのかを、曖昧にせず伝える。
次に、相手がどのような事情や考えを持っていたのかを聞く。
そして、自分の見方にも見落としがあるかもしれないと考える。
最後に、意見が一致しなくても、相手の尊厳を損なわない関わり方を選ぶ。
さらに、伝えたあとにも関心を向けたいと思います。
相手は、こちらの言葉をどのように受け取ったのか。仕事の問題について、互いの理解はそろっているのか。必要なら、次にどうするかを改めて話し合えるだろうか。
これは、どんな場面でも成功する技法ではありません。相手が納得する保証も、関係が必ずよくなる保証もありません。
それでも、言うべきことを言わないままでは、相手に向き合ったことにならない場合があります。
かといって、自分が正しいと思うことを言い切るだけでも、十分ではありません。
優しさは大切です。だからこそ、優しいだけではいられない場面があるのでしょう。
誠実であることは、相手に同意することではありません。
必要なことを伝え、ときには意見が対立しても、その相手との関係に責任を持とうとすること。
リーダーの誠実さは、何を言ったかだけでなく、言ったあとにどう向き合うかにも表れるのではないでしょうか。
参考文献
Jehn, K. A. (1995). A multimethod examination of the benefits and detriments of intragroup conflict. Administrative Science Quarterly, 40(2), 256–282. https://doi.org/10.2307/2393638
※書誌情報と論旨はEdit文書およびGemini返答を元にした暫定記載。Pによる原典直接照合は未完了。
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