リーダーは、決めるまで慎重に考えます。
ところが、決めた途端に、自分の判断を疑わなくなることがあります。
なぜ、決断することが、考えることの終わりになってしまうのでしょうか。
決めるまでは、いくつもの可能性が見えていました。
別の方法もあるかもしれない。まだ知らない情報があるかもしれない。自分とは異なる見方にも、耳を傾ける余地がありました。
ところが、ひとたび決断すると、その景色が変わることがあります。
自分が選んだ道を正しいと思いたくなります。反対する声より、決断を支持する情報に目が向きます。決める前には重要だった疑問が、決めた後には邪魔なものに感じられます。
もちろん、決断すれば必ず間違うわけではありません。
それでも、決めたという事実が、判断を見直すことを難しくする場合があります。リーダーにとって危ういのは、間違った決断だけではありません。決断したことで、もう考えなくてよいと思ってしまうことではないでしょうか。
決めた瞬間、何が変わるのか
リーダーには、決めることが求められます。
情報を集め、関係者の意見を聞き、複数の選択肢を比べます。そして、どこかで一つを選びます。いつまでも選ばずにいることはできません。
しかし、決断は単に選択肢を一つに絞る行為ではありません。
それまで「検討していた案」が、「自分の決めた方針」に変わります。周囲に説明し、人を動かし、時間や費用を投じ始めます。判断には、自分自身の立場や責任も結びついていきます。
だからこそ、決断後に反対意見が出ると、案への指摘であるはずの言葉が、自分への否定のように聞こえることもあります。
本来、問われているのは判断の妥当性です。けれども、決めた本人にとっては、判断を見直すことが、自分の責任を否定することのように感じられる場合があります。
決断の危うさは、ここから始まります。
不安だからこそ、確かめようとする
決断を前にして、不安を感じることがあります。
見落としている条件はないか。誰かに無理を強いていないか。想定した結果が得られなかったら、どうするのか。
そうした不安を、リーダーとしての弱さと考える必要はありません。
不安は、自分がまだ知らないことや、見落としている可能性に気づく契機にもなります。自分には見えていない事情があるかもしれません。その認識が、追加の情報を探し、詳しい人に確かめ、別の選択肢を検討する行動につながる場合があります。
それは単に安心するための行為ではありません。知らないまま決めてしまうことを避け、自分の判断に責任を持とうとする姿勢でもあります。
ただし、不安があるほど良い判断ができるわけでもありません。不安が強すぎれば、情報を集め続けても決められなくなることがあります。確実さを求めるあまり、決断の機会を失うこともあるでしょう。
大切なのは、不安をなくすことでも、不安に従うことでもありません。
何がまだ分かっていないのか。何を確かめれば判断できるのか。そして、何が分からないままでも、今決める必要があるのか。
その区別をつけることが、決断に向かうための仕事なのだと思います。
正しいと信じることと、正しいことは違う
自分で決めたことには、理由があります。
だからこそ、決断後にその理由を支持する情報を見つければ、安心します。反対に、判断を揺さぶる情報には、厳しい目を向けたくなります。
ここでは、似ているようで異なる三つのことを区別しておきたいと思います。自分の信念に合う情報を選びやすいこと。いったん下した決断に、後から理由を与えて正当化しようとすること。そして、決断後に新しい情報が現れても、方針を修正しにくくなることです。
確証バイアス、認知的不協和、決断後の自己正当化などの研究は、こうした問題を考える手がかりになります。ただし、それぞれ同じ心理現象ではありませんし、決断後に方針を変えにくくなる理由を、一つの研究だけで説明できるわけでもありません。
もちろん、これらの研究が、すべてのリーダーが決断後に誤ると示しているわけではありません。
問題は、判断を支持する理由があることではなく、その理由しか見なくなることです。
たとえば、部下から「現場では、この方法はうまくいかないかもしれません」と言われたとします。
そのとき、説明が足りなかったのだろうと考えることもできます。しかし、説明の問題ではなく、判断の前提そのものが違っていた可能性もあります。
反対意見を聞くことと、反対意見を判断材料として扱うことは、同じではありません。
自分の判断に確信があるときほど、どの情報なら考えを変えるのかを、自分自身に問いかける必要があります。
それでも、リーダーは決めなければならない
判断を疑い続けることは、決断を避け続けることではありません。
仕事には期限があります。情報が揃うのを待っている間にも、状況は変わります。決めないことによって、誰かが動けなくなる場合もあります。
だから、リーダーは決めます。
ただし、その決断は「これが絶対に正しい」という宣言である必要はありません。
現時点で得られる情報から、何を重視し、どの不確実性を引き受けて、この道を選ぶのか。その判断を、自分の責任として示すことはできます。
同時に、決断後に何を確認するのかも決めておきます。
どのような変化が起きたら見直すのか。誰の声を聞き続けるのか。どの前提が崩れたら、別の選択肢に切り替えるのか。
決めることと、見直す余地を残すことは矛盾しません。
むしろ、その両方を引き受けることが、決断の責任なのではないでしょうか。
自分の判断を、最後まで疑えるか
決断した後に、リーダーが守るべきものは何でしょうか。
自分の発言でしょうか。最初に選んだ方針でしょうか。それとも、その決断によって実現しようとした目的でしょうか。
方針を変えないことが、責任を果たすことになる場合もあります。反対意見が出るたびに判断を変えていては、組織は進めません。
しかし、自分の判断を守ることと、その判断に責任を持つことは同じではありません。
新しい事実を確かめたうえで、方針を維持することが適切な場合もあります。反対に、以前の判断を守ることだけを優先し、自分が間違っている可能性から目を背けるなら、何のための決断だったのかを見失ってしまいます。
部下の反対意見は、リーダーを困らせるものとは限りません。自分には見えていなかった現実を知らせる情報かもしれません。
聞いたうえで、変えないと決めることもあるでしょう。反対に、自分の判断を修正しなければならないこともあります。
そのどちらにも、理由を示す責任があります。変えない場合にも、変える場合にも、問うべきなのは自分の立場を守れるかではなく、判断が今なお妥当かどうかです。
決断は、考えることの終わりではありません。
決めた瞬間から、リーダーは自分の判断を守りたくなるかもしれません。だからこそ、その判断が今も妥当なのかを、問い直し続けたいと思います。
自分で決める。そして、自分で決めたことだからこそ、疑い続ける。
そこに、リーダーが引き受けるべき責任があるのだと思います。
参考文献
Brehm, J. W. (1956). Postdecision changes in the desirability of alternatives. The Journal of Abnormal and Social Psychology, 52(3), 384–389. https://doi.org/10.1037/h0041006
Nickerson, R. S. (1998). Confirmation bias: A ubiquitous phenomenon in many guises. Review of General Psychology, 2(2), 175–220. https://doi.org/10.1037/1089-2680.2.2.175
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