カイゼンの先に、経営者は何を問われるのか。|INNERSHIFT

著者:Yuta Mogami, Ph.D.

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40年間のカイゼンから、何を学んできたのか

社員が自分の仕事について問いを持つ。改善のアイデアを出す。そして、その場で議論し、必要な判断を行う。

これは、決して新しい経営の考え方ではありません。

日本の製造業が育んできたカイゼンや現場主義は、仕事を実際に担う人々の知恵を尊重し、日々の改善を積み重ねることの重要性を示してきました。

先日、私がMediumに掲載した記事「When Employees Start Asking Their Own Questions, What Should Leaders Do?」に、海外の読者からコメントが寄せられました。

その方は、約40年にわたって蓄積されてきたKaizenやGembaの知見を踏まえれば、社員からできるだけ多くの問いやアイデアが生まれることを、私たちは当然歓迎するはずではないか、と指摘していました。

さらに、議論は実際に仕事が行われ、学習が生まれる現場で行うべきであり、組織の階層を短縮し、判断が必要な場所で、必要なときに決めることが重要だという考えを示していました。

私は、この指摘に強く共感しました。

経営者や管理職だけが問題を発見し、解決策を考えるのではない。現場で仕事をしている人々自身が問いを持ち、考え、判断に関わる。

それは、組織の学習を考えるうえで欠かせない視点です。

そして、このコメントは、私にもう一つの問いを生みました。

社員が問いを発することを歓迎する経営者自身は、その問いによって、自分の考えを問い直すことができるのだろうか。

現場を学習の場として重視するなら、そこに参加する経営者自身もまた、学習の当事者になるはずです。

本記事では、この問いを考えてみたいと思います。

社員の問いは、何を変えるのか

社員からの問いや提案には、さまざまなものがあります。

作業の順序を変えた方がよいのではないか。会議の進め方を見直せないか。顧客への対応を、もっと柔軟にできないか。

こうした問いは、日々の仕事を改善するきっかけになります。

しかし、社員の問いが、いつも業務の進め方だけに向けられるとは限りません。

例えば、ある会社の経営者が、顧客満足を最も重視する方針を掲げているとします。

ところが、社員から次のような指摘がありました。

「私たちは顧客に丁寧に対応したいと思っています。でも、今の評価制度では、顧客への対応の質よりも、処理件数の多さが評価されています。このままで、本当に顧客満足を重視していると言えるのでしょうか」

これは、架空の場面です。

しかし、この問いが持つ意味は、単なる業務改善の提案とは異なります。

社員が問題にしているのは、仕事の進め方だけではありません。経営者自身が掲げた方針と、経営者が決めた評価制度との関係です。

ここで経営者が「評価制度は会社全体の事情を考えて決めている」と答えることはできるでしょう。

その説明が妥当な場合もあります。

しかし、社員の問いによって、経営者自身が見落としていた矛盾に気づく可能性もあります。

ここで参考になるのが、クリス・アージリスとドナルド・ショーンによる組織学習の議論です。

彼らは、既存の目標や判断基準のもとで行動を修正する学習と、その目標や判断基準そのものを問い直す学習を区別しました。

ただし、これはカイゼンを前者だけに分類するための議論ではありません。実際のカイゼンには、仕事の前提や仕組みを深く問い直す営みも含まれ得るからです。

ここで、社員の問いに対する経営者の関わり方を、三つに分けて考えてみたいと思います。

一つは、社員の発言や提案を歓迎すること。

もう一つは、社員とともに判断の前提を検討すること。

そして三つ目は、社員の問いによって、経営者自身の認識が変わる可能性を引き受けることです。

これらは、必ず順番に進む発達段階ではありません。対話のあり方を考えるための区別です。

社員の声を聞く仕組みがあっても、経営者自身の判断が検討の対象になるとは限りません。

また、判断の前提を検討したからといって、必ず結論が変わるわけでもありません。

重要なのは、社員の問いが経営者自身の判断に及んだとき、その問いを検討の対象から外さないことだと私は考えています。

経営者自身は、問い直される準備があるか

社員が率直に意見を述べることは、簡単ではありません。

自分の発言が否定されるかもしれない。上司の機嫌を損ねるかもしれない。余計なことを言わない方が安全かもしれない。

組織の中には、こうした不安が存在します。

エイミー・エドモンドソンによる心理的安全性の研究は、対人関係上のリスクを取れると感じられるチーム環境と、学習行動との関係を考える重要な手がかりを与えています。

また、社員の発言行動を扱う研究では、リーダーが意見に対して開かれていることの重要性も検討されてきました。

しかし、ここで考えたいのは、経営者が社員の意見を聞く立場にとどまることと、経営者自身も対話の当事者になることの違いです。

私の博士研究では、職場における対話的関係の形成に着目し、リーダーが率直に対話へ参加することと、部下の感情的共鳴との関係を検討してきました。

ここで重要なのは、リーダーが社員の意見を聞く立場にとどまるのではなく、リーダー自身も対話の当事者になるという視点です。

ただし、ここから経営者自身の認識が変わることや、意思決定権限が現場へ移ることまでが実証されたわけではありません。そうした可能性については、本記事における私自身の考察として論じます。

リーダーが一方的に問いかけ、社員が答えるだけではなく、リーダー自身も自分の考えや迷いを言葉にし、相手の応答を受け止める。

そうした関わり方に、私は注目してきました。

ただし、ここから先は、博士研究の結果をそのまま述べるのではなく、今回の問題に引き寄せた私自身の考察です。

先ほどの評価制度の例で考えてみましょう。

経営者が社員に「なぜ、そう思うのか」と尋ねることは、大切です。

しかし、社員の説明を聞いたあとで、「では、私たちは何を顧客満足と考えてきたのだろうか」と経営者自身が問いを持つなら、対話の意味は少し変わります。

経営者は、社員の意見を評価するだけの立場ではなく、自分自身の考えも検討の対象にする当事者になります。

そのとき、経営者が考えを変えるとは限りません。

けれども、自分が何を根拠に判断しているのかを相手とともに確かめることはできます。

私は、そこに対話的な関係の重要な可能性があると考えています。

もちろん、対話が深まれば必ず心理的安全性が高まる、経営者の認識が変わる、意思決定権限が現場へ移る、といった因果関係をここで主張するものではありません。

対話的な関係の形成と、意思決定権限の配分は、区別して考える必要があります。

判断する責任と、考えを変えること

社員の問いを受け止めることは、社員の意見をすべて採用することではありません。

経営者には、社員一人ひとりからは見えにくい事情を踏まえて判断しなければならない場面があります。

資金繰り、顧客との約束、事業の継続、将来への投資。複数の利害や時間軸を考慮しなければならないこともあるでしょう。

先ほどの評価制度の例でも、処理件数を評価することには、合理的な理由があるかもしれません。

顧客を長く待たせないことも、顧客満足の一部だからです。

経営者が社員の指摘を検討した結果、評価制度を変更する場合もあれば、現行制度を維持する場合もあるでしょう。

しかし、ここで重要なのは、結論だけではありません。

経営者は、その判断に至る過程を、どこまで他者と共有できるのでしょうか。

例えば、評価制度を維持すると判断したとしても、社員の指摘によって何を考えたのか、どのような事情を比較したのか、なぜ変更しないと決めたのかを説明することはできます。

逆に、制度を変更する場合にも、社員の意見を採用したという事実だけでなく、どのような検討を経て変更が必要だと判断したのかを伝えることができます。

もちろん、経営には、すべての情報を公開できない事情もあります。

個人情報、取引上の機密、未確定の経営判断など、共有できる範囲には限界があります。

それでも、何を考慮して判断したのか、どのような価値を重視したのかを、可能な範囲で説明することには意味があるでしょう。

私は、ここに経営者の対話の難しさがあると考えています。

社員の意見に迎合するのでもなく、経営者の権限だけを根拠に結論を押し通すのでもない。

異なる意見を検討し、自分自身の判断の前提を問い直したうえで、最終的な判断責任を引き受ける。

考えを変える可能性に開かれていることと、判断する責任を引き受けることは、矛盾しません。

むしろ、その両方を引き受けるところに、経営者自身の学習があるのではないでしょうか。

カイゼンの先にある問い

カイゼンは、現場で仕事をよりよくするために、考え続けることの重要性を教えてくれます。

Gembaという考え方も、仕事の実際から離れたところで、すべてを理解したつもりになってはいけないことを思い起こさせます。

現場を学習の場として重視するなら、そこに参加する経営者自身もまた、学習の当事者になる。

私は、海外の読者から寄せられたコメントをきっかけに、そのことを改めて考えました。

経営者は、社員の問いに答えるだけの存在ではありません。

自分が当然だと思ってきたことを、社員との関わりの中で見直すこともできるはずです。

そして、問い直した結果、これまでの判断を維持する場合もあれば、新たな判断へ進む場合もあるでしょう。

重要なのは、結論を変えることそのものではなく、問いに対して自分を閉ざさないことだと思います。

社員が問いを発することを歓迎する組織。

そのような組織で、経営者自身は、どのような学習主体であり続けられるのでしょうか。

社員の問いが自分自身の判断に向けられたとき、経営者は何を学ぶことができるのか。

その問いを持ち続けることもまた、現場の学習を支える経営者の大切な仕事なのではないでしょうか。

参考文献

Argyris, C., & Schön, D. A. (1978). Organizational Learning: A Theory of Action Perspective. Addison-Wesley.

Edmondson, A. (1999). Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams. Administrative Science Quarterly, 44(2), 350–383.

Detert, J. R., & Burris, E. R. (2007). Leadership Behavior and Employee Voice: Is the Door Really Open? Academy of Management Journal, 50(4), 869–884.

Morrison, E. W. (2014). Employee Voice and Silence. Annual Review of Organizational Psychology and Organizational Behavior, 1, 173–197.

Imai, M. (1986). Kaizen: The Key to Japan’s Competitive Success. McGraw-Hill.

Ohno, T. (1988). Toyota Production System: Beyond Large-Scale Production. Productivity Press.

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