AIとシェアド・リーダーシップ──「共に導く」はどこまで広がるのか|INNERSHIFT

最近、意思決定の場にAIが入ることが増えてきました。

会議の論点整理をAIが行う。
判断材料をAIが提示する。
壁打ちの相手としてAIを使う。
文章や企画の方向性を、AIと対話しながら組み立てる。

そうした場面は、すでに珍しいものではなくなりつつあります。

しかし、その変化の中で、ときどき不思議な感覚が残ることがあります。

最終的に判断しているのは人間です。
けれど、本当に「導いている」のは誰なのでしょうか。

あるいは、
「考える」という行為そのものが、
すでに一人のものではなくなり始めているのかもしれません。

「共に導く」という考え方

リーダーシップ研究では、
以前から「一人のリーダーが導く」という前提を問い直す流れがありました。

その代表的な考え方のひとつが、
シェアド・リーダーシップです。

シェアド・リーダーシップについては、
以前Guide記事
「シェアド・リーダーシップとは何か|INNERSHIFT」
でも整理しました。

ここで扱われていたのは、
リーダーシップを“個人の資質”としてではなく、
関係や相互作用の中で立ち上がるものとして捉える視点でした。

Craig L. Pearce(クレイグ・L・ピアース)は、
「知識労働化」が進む組織では、
一人のリーダーに依存するよりも、
リーダーシップを分かち合う構造が重要になると論じています。

Pearce, C. L.(Pearce, C. L.)
「リーダーシップの未来──垂直型とシェアド・リーダーシップを組み合わせ、知識労働を変革する(The Future of Leadership: Combining Vertical and Shared Leadership to Transform Knowledge Work)」
Academy of Management Executive, 2004.

この考え方は、
チームベースの働き方や、
自律的な組織運営が広がる中で、
大きな影響を与えてきました。

ただ、ここで少し立ち止まって考えたくなります。

これまでのシェアド・リーダーシップは、
暗黙のうちに、
「人間同士」での共有を前提としていたのではないでしょうか。

AIは「共に導く」に入ってくるのか

Psoni は、
LMDE 2025 において、
AI、バーチャル・コラボレーション、
そしてシェアド・リーダーシップの convergence(収束・融合)について論じています。

Psoni, P.(Psoni, P.)
「デジタル時代におけるリーダーシップ再考──AI、バーチャル・コラボレーション、シェアド・リーダーシップの融合(Rethinking Leadership in the Digital Age: The Convergence of AI, Virtual Collaboration and Shared Leadership)」
LMDE 2025 Conference, 2025.

この論文が興味深いのは、
AIを単なる効率化ツールとして扱っていない点です。

むしろ、
AIが意思決定や協働の内部に入り始めることで、
「誰がリーダーなのか」
その境界自体が揺らぎ始めていることを示唆しています。

たとえば、
会議でAIが論点を整理し、
選択肢を提示し、
対立点を可視化し、
次のアクションを提案する。

その時、
場を動かしているのは誰なのでしょうか。

発言した人でしょうか。
決裁した人でしょうか。
それとも、
場の認識構造そのものを変えたAIなのでしょうか。

ここでは、
「リーダーが命令する」
という構図そのものが、
少しずつ変わり始めています。

「正統性」はどこから生まれるのか

AIが意思決定に深く関わり始めると、
もうひとつ揺らぐものがあります。

それは、
leader legitimacy、
つまり、
「なぜこの人がリーダーなのか」
という正統性です。

これまで、
リーダーシップの正統性は、

・経験
・知識
・判断力
・カリスマ性
・肩書き

などによって支えられてきました。

しかし、
情報整理や分析、
選択肢生成の一部をAIが担い始めると、
「知っていること」だけでは、
リーダーシップの根拠になりにくくなる。

すると、
リーダーの役割そのものが変わっていきます。

答えを持つ人ではなく、
異なる視点や感情や関係をつなぎ直し、
意味を媒介する人。

あるいは、
人とAIのあいだで、
“どの問いを立てるか”を扱う人。

そうした方向へ、
リーダーシップが移り始めているのかもしれません。

「共に導く」はどこまで広がるのか

シェアド・リーダーシップは、
「リーダーシップを分かち合う」
という考え方でした。

しかし今、
その“shared”の範囲自体が、
変わり始めているようにも見えます。

かつては、
「一人から複数人へ」
という変化でした。

けれど現在は、
「人間だけではない何か」との協働へ、
少しずつ広がり始めている。

もちろん、
AIが「人間のリーダーになる」
と単純に言いたいわけではありません。

ただ、
私たちはすでに、
AIを含んだ意思決定の場に入り始めています。

そしてその時、
リーダーシップは、
誰か一人の内部に存在するものとしてではなく、
人と人、
人とAI、
その関係のあいだで立ち上がるものへ、
変わり始めているのかもしれません。

「共に導く」は、
どこまで広がっていくのでしょうか。