会議が続き、メールが途切れず、判断を求められる声は増え続ける。
一日中動いているのに、なぜか前に進んでいる実感がない。
多くのリーダーが抱えるこの感覚は、単なる業務過多の問題ではありません。
「忙しさ」と「判断」は、必ずしも同じ方向を向いていないからです。
忙しいリーダーほど、判断から遠ざかっていく
朝から晩まで予定が詰まり、即応が求められ、判断を迫られる。
その状態に長く身を置くほど、リーダーは「決めているつもり」になります。
しかし実際には、
- 会議を設定している
- 調整をしている
- 指示を出している
それらの多くは、判断そのものではなく、判断を先送りするための動きであることが少なくありません。
動いていることと、決めていることは違う。
むしろ、判断しない状態が続くほど、人は忙しくなるという逆説が起きます。
HBRが示した「多忙の罠」──アクティブ・ノンアクション
この現象を、早くから指摘していた研究があります。
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー に掲載された、
ハイケ・ブルッフとスマントラ・ゴシャールによる論考です。
彼らは、多忙なマネジャーの状態を
「アクティブ・ノンアクション」──動いているが、本質的な行動がなされていない状態
と表現しました。
調査では、マネジャーの活動の大半が、価値創出につながっていないことも示されています。
忙しさは、成果の証拠ではない。
むしろ、選択と集中がなされていないサインである場合があるのです。
判断とは「決断」ではなく「意味づけ」である
ここで改めて、判断とは何かを考えてみる必要があります。
判断とは、単に「Yes / No」を決めることではありません。
- 何を重要と見なすのか
- 何を後回しにするのか
- 何を語らずにおくのか
そうした意味づけの連続が、判断です。
組織論者カール・E・ワイクは、これを**意味づけ(Sensemaking)**として捉えました。
人は出来事そのものではなく、出来事に与えた意味に基づいて行動する。
忙しいリーダーが失っているのは、時間ではありません。
意味づけを主導する位置なのです。
INNERSHIFTの視点:判断は一人で抱えるものではない
判断が重くなるほど、リーダーは一人で背負いがちになります。
しかしそれは、判断力の問題ではありません。
問題は、判断が
- 見えず
- 共有されず
- 関係の中に置かれていない
ことにあります。
EQリーダーシップ®の視点では、
感情 → 意味づけ → 判断 → 行動 → 関係
という循環が前提にあります。
判断は、個人の頭の中で完結させるものではなく、
関係の中で編み直されるものです。
忙しさから抜ける鍵は、効率化ではありません。
判断をどこに置き、誰と共有するかを見直すことです。
結語|問い
あなたは今、本当に忙しいのでしょうか。
それとも、決めることを先送りしているのでしょうか。
その判断は、本来、誰と共有されるべきものだったのでしょうか。
参考文献
ブルッフ, H., ゴシャール, S.(2002)
『マネジャーが陥る多忙の罠──仕事にも選択と集中を』
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー
Weick, K. E.(1995)
Sensemaking in Organizations
Sage Publications.
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