生成AIで人は育つのか？──問いが学習を変える｜INNERSHIFT

学びは速くなった。では、人は育っているのか

生成AIの登場によって、学びのスピードは確実に上がりました。
わからないことはすぐに聞ける。
自分に合った説明を、その場で返してくれる。

一方で、現場からはこんな違和感も聞こえてきます。
「知識は増えているが、考え方は変わっていない」
「答えは早いが、問いが浅いままになっている」

本当に問うべきなのは、ここかもしれません。
生成AIは答えを増やしたが、問いは増えているのか。

生成AIがもたらした「学習の効率化」

DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビューに掲載されたサガル・ゴエルほか（2025）の論考では、
生成AIがAIチューターとして機能し、学習を個別最適化することで、
スキル習得の効率が高まることが示されています。

・理解度に応じた説明
・反復練習の低コスト化
・学習機会へのアクセス拡張

これらは否定しようのない事実です。
ここでは評価を急がず、まず「起きている現象」として受け止めておきます。

人が育つとき、何が起きているのか

では、人が本当に育つのはどんなときでしょうか。
教育・学習研究の多くは、共通した構造を示しています。

人は、
問い、試し、振り返ったときに育つ。

アンダース・エリクソンが示した意図的練習（Deliberate Practice）は、
才能ではなく、弱点に向き合い、修正を重ねる循環が成長を生むことを明らかにしました。

また、バリー・ジマーマンの自己調整学習（Self-Regulated Learning）は、
目標設定、実行、振り返りを自分で回す力こそが、学習を持続させると説明します。

育成の本質は、知識の量ではなく、
この循環構造を回せているかどうかにあります。

AIが循環を省略するときに起きるズレ

生成AIは、とても優秀です。
しかし使い方を誤ると、問い・試行・振り返りの一部を省略してしまいます。

・考える前に答えが出る
・試す前に最適解が示される
・振り返る前に要約が返ってくる

その結果、思考は外注され、学習は消費に近づきます。
「わかったつもり」だけが積み上がっていく危うさです。

これは個人の怠慢ではありません。
構造としてそうなりやすいのです。

INNERSHIFTの視点──AIは「問いを増やす相棒」になれるか

INNERSHIFTでは、AIの価値を「教えること」には置きません。
むしろ重要なのは、
問いを分岐させ、視点を増やす相棒になれるかという点です。

人の仕事は、正解を出すことから、
意味づけを行い、文脈をつくることへ移行しています。

AIが答えを出すほど、
人は「なぜその答えを選ぶのか」「他にどんな見方があるのか」を
引き受ける必要があります。

実践の原則──How-toにしすぎないために

生成AIを育成に使うなら、
次のような原則が一つの目安になります。

・答えを出させない
・前提や選択肢、対立仮説を出させる
・必ず人との対話に戻す

AIとのやり取りで終わらせず、
問いを持ち帰り、人と語る設計があるかどうか。
それが分かれ目になります。