感情をうまく伝えられなかったあと、
自分の判断やふるまいに、どこか確信が持てなくなることがあります。
「言えばよかったのか」
「言わないほうがよかったのか」
その問いが残るとき、
問題になっているのは、伝え方の巧拙だけではないのかもしれません。
表現は、気分ではなく「積み重なる行為」として扱われてきた
近年の心理学研究では、
感情表現を一時的な気分の発散としてではなく、
日常的に繰り返される行為として捉える視点が示されています。
経験サンプリング法や縦断研究では、
日々の中で感情をどの程度表に出しているかが、
数年単位での自己評価の安定性と関連していることが報告されています。
ここで扱われている自己評価(trait self-esteem)は、
「自信があるかどうか」といった単純な指標ではありません。
むしろ、
自分をどう見積もり続けているかという、
長期的で、揺れを含んだ感覚を指しています。
重要なのは、
感情を表現した結果が良かったかどうかではなく、
表現しているという事実そのものが、 自己との関係に影響している可能性が示唆されている点です。
表現しない選択が、必ずしも調整を意味するわけではない
感情を表に出さないことは、
しばしば「感情をコントロールできている状態」として語られます。
しかし、研究の文脈では、
抑制や未表現が常に適応的であるとは扱われていません。
感情を出さない選択は、
場を保つこともあれば、
同時に、
「自分が何を感じていたのか」を
自分自身から見えにくくすることもあります。
その結果、
判断の手応えが曖昧になったり、
あとから理由の説明が難しくなったりする。
そうしたズレが、
自己評価の揺れとして蓄積されていく可能性が示されています。
感情表現力は、うまく伝える力ではない
Emotional Compassでは、
感情表現力を
「わかりやすく伝える能力」や
「感情を外に出せる強さ」
としては扱っていません。
感情表現力は、
感情を外に出すという行為が、 判断や関係にどんな影響を与えやすいかを見つめる特性です。
表現できること自体が正解なのでも、
表現できないことが問題なのでもありません。
ただ、
表現しなかった感情が、
どこに残り続けているのか。
その残り方が、
判断や関係のどこに影響しているのか。
感情表現力は、
そうした結節点を照らす視点として位置づけられています。
「何力でできているか」という見方
INNERSHIFTでは、
リーダーシップを単一の資質ではなく、
いくつかの力のバランスとして捉える視点も紹介しています。
心理学のビッグファイブ理論をもとにした
「そのリーダーシップ、何力でできてますか?|“5つの力”で読み解くビッグファイブ理論」
というアニメ動画では、
発信力
感情調整力
革新力
遂行力
共感力
という5つの力の偏りによって、
リーダーのふるまいがどう形づくられるかが描かれています。
感情表現力は、
この中のどれか一つに還元されるものではありません。
発信や共感の土台に関わりつつ、
同時に、
調整や遂行との緊張関係の中にも置かれています。
どの力が足りないかを決めるためではなく、
どの力が、どこで引っ張り合っているのかを見るための枠組みとして、
参照することができます。
動画はこちら:
https://youtu.be/Pyqxf1qSUgg?si=s17sFf86uVLUBYAj
表現しなかった感情は、消えてはいない
感情を表に出さなかったからといって、
その感情がなかったことになるわけではありません。
多くの場合、
それは言葉にならないまま、
判断の背景や、
関係の距離感として残り続けます。
自己評価が揺れるとき、
その揺れは、
能力や成果の問題として語られがちです。
けれど、
日々どんな感情を、
どこで表現し、
どこで留めてきたのか。
その積み重ねが、
自分との関係を形づくっている可能性もあります。
感情を表現するかどうか。
その選択が、
いつも正解と不正解に分かれるわけではありません。
ただ、
表現しなかった感情が、
いまもどこかに残っているとしたら。
その問いを置いておくこと自体が、
判断の仕方に影響しているのかもしれません。
INNERSHIFTからのお知らせ
INNERSHIFTでは、
感情と意思決定、対話、リーダーシップの関係を
Emotional Compass を通じて探究しています。
感情表現力は、
感情を排除するのではなく、
感情とともに判断を続けるための重要な特性のひとつです。