毎朝、エネルギーが足りない。
十分に休んだはずなのに、出社した瞬間から消耗が始まっている。
努力している。部下にも気を配っている。感情もコントロールしている。
それでも、疲弊だけが蓄積していく。
この違和感は、個人の弱さやスキル不足では説明できません。
問題は、なぜ感情を「装い続ける役割」が、リーダーに集中してしまうのかにあります。
感情労働は「つくり笑顔」だけの問題ではない
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー(以下HBR論文)では、
感情労働(Emotional Labor)とは、仕事の中で求められる感情表現を調整する行為を指します。
その代表的な整理が、表層演技と深層演技です。
表層演技は、感じていない感情を外側だけで演じること。
深層演技は、内側の感情そのものを仕事に合う形へと整えようとすることです。
HBR論文では、表層演技がエネルギーを急速に消耗させる一方で、
深層演技は一時的には有効に見えることが示されています。
“Surface acting drains energy quickly, while deep acting can feel more sustainable—at least in the short term.”
しかし、ここで重要なのは、
**どちらを選んでも「消耗から完全には逃れられない」**という点です。
感情労働は、単なるつくり笑顔の問題ではありません。
それは、仕事の中に組み込まれた役割要請なのです。
なぜリーダーは、感情労働から逃れられないのか
HBR論文が示しているのは、
感情労働が個人の対処法だけでは解決しないという事実です。
リーダーは、感情を扱う役割を自然に引き受けていきます。
チームの不安を受け止め、方向性を説明し、衝突を和らげる。
そのたびに、感情は一度リーダーの中で処理されます。
ここで集中しているのは、
感情そのものではありません。
判断と意味づけ、そして説明責任です。
チームの感情をどう解釈するのか。
どの判断につなげるのか。
その意味をどう語るのか。
これらを一人で背負う構造がある限り、
リーダーは「感情を装う役」に固定されていきます。
感情労働が重くなるのは、
感情を扱えないからではありません。
判断の工程が分散されていないからです。
INNERSHIFTの視点:感情は管理するものではない
EQリーダーシップ®の立場では、
感情は管理や抑制の対象ではありません。
感情は、意味づけを経て判断になり、
行動を生み、関係をつくります。
感情 → 意味づけ → 判断 → 行動 → 関係。
この循環が健全に回っているとき、
感情は消耗の原因ではなく、意思決定の資源になります。
問題は、この循環を
一人で回そうとする設計です。
感情を判断に変換する工程を、
リーダーだけが引き受けてしまうと、
感情労働は不可避になります。
EQリーダーシップ®が目指しているのは、
感情をコントロールすることではありません。
感情を判断へと変換するプロセスを、関係の中に分散させることです。
結語|問い
あなたは、感情を“装っている”場面があるでしょうか。
その感情は、本来、誰の判断につながるものだったのでしょうか。
今、あなたは何を一人で背負いすぎているでしょうか。
参考文献
セイヤー, G. M., グランディ, A. A., チ, N.(2025)
『リーダーが感情労働による疲弊から抜け出す方法
(How Leaders Can Break Free from Emotional Labor Burnout)』
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー
https://dhbr.diamond.jp/articles/-/13023
Hochschild, A. R. (1983). The managed heart: Commercialization of human feeling. University of California Press.
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