「恐怖で支配する上司」のもとで壊れていくもの──Forbesが描いた職場のリアルと感情知性|INNERSHIFT

執筆:最上 雄太

恐怖によって支配される職場で、人は本当に成果を出せるのでしょうか。

この問いに正面から向き合った記事があります。
Forbes JAPAN に掲載された
「『恐怖で支配する上司』のもとで自分を守り、成果を出すためのヒント」です。

この記事が扱っているのは、抽象的な「悪い上司論」ではありません。
恐怖に基づく支配が、いかにして組織と個人を蝕み、
それでもなお「成果が出ているように見えてしまう」構造を持つのかという、
きわめて今日的で現実的な問題です。

恐怖は人を「動かす」が、「考えさせない」

Forbesの記事で印象的なのは、
恐怖がもたらす影響を、心理論にとどめず、
神経系レベルで説明している点です。

恐怖にさらされると、扁桃体ハイジャックが起こり、
人は闘争・逃走・凍結・迎合といった反応に支配されます。

この状態では、意思決定や創造性、問題解決能力に
ほとんどアクセスできなくなります。

つまり、恐怖は人を「動かす」ことはあっても、
考え続けさせることはできません

Forbesの記事は、この点をかなり明確に描いています。
パワハラ環境が成果を生んでいるように見えるとき、
そこで起きているのは高度な判断ではなく、
生存反応に近い状態だと言えるでしょう。

Forbes記事が示した「重要だが足りない視点」

この記事の後半では、
こうした環境を生き抜くために、
感情的知性(EQ)が役に立つ場合がある、という言及がなされています。

自己意識を保つこと。
有害な言動に振り回されすぎないこと。
不用意に弱みをさらさないこと。

いずれも現実的で、当事者にとって切実な示唆です。

しかし同時に、ここで語られるEQは、
どこか曖昧なままに留まっているようにも見えます。

EQが「役立つことがある」とは、
具体的にどのような状態を指しているのでしょうか。
なぜEQが弱まると、人はここまで深く壊れてしまうのでしょうか。

Forbesの記事は、恐怖の破壊力を描くことには成功しています。
ただし、壊れていく「内側のプロセス」については、
十分に言語化されているとは言えません。

壊れていくのは「判断力」ではなく「自己との接続」

恐怖で支配される環境に長く置かれた人は、
やがて次のような状態に陥りやすくなります。

自分の感じていることが信用できなくなる。
判断の基準がわからなくなる。
「自分が悪いのではないか」という感覚が常態化する。

これは単なるストレス反応ではありません。
自分の内側を見つめ直す回路そのものが、途切れていく状態です。

Forbesの記事の中には、
「太陽の下にある自分の姿を思い出せ」という印象的な比喩があります。
美しい表現です。

しかし同時に、
なぜ人はその「自分の姿」を思い出せなくなるのか。
何がそれを支えていたのか。
そこまでは踏み込まれていません。

Emotional Compassが示す「内省継続力」

Emotional Compassでは、
この問題を 内省継続力 という特性で捉えています。

内省継続力とは、
強い圧力や感情にさらされながらも、
自分の内側で起きている反応を見失わず、
問い続ける力を指します。

恐怖の本質的な破壊力は、
人を不安にさせることではありません。
内省を中断させることにあります。

内省が止まったとき、
人は状況を判断しているつもりで、
実際にはただ反応しているだけになります。

Emotional Compass における
trait_16|内省継続力
https://innershift.jp/twentyfour-traits/trait_16/

この特性は、恐怖の環境を「耐える力」ではありません。
恐怖の中で、自分を外から眺め直す回路を
失わずにいるための力です。

EQという言葉が覆い隠しているもの

Forbesの記事は、
恐怖による支配がいかに非生産的かを、
十分な説得力をもって示しています。

ただし、EQという言葉で一括りにした瞬間、
本来区別されるべきものが混ざってしまいます。

感情を抑える力。
人に合わせる力。
空気を読む力。

これらは、恐怖の環境ではむしろ、
迎合や自己喪失を加速させる場合すらあります。

本当に失われているのは感情そのものではなく、
自分自身を問い直す視点です。

終わりに

「恐怖で支配する上司」のもとで、
人はなぜ壊れていくのでしょうか。

Forbesの記事は、その現実を正確に描き出しています。
だからこそ、もう一歩踏み込む必要があります。

恐怖が奪っていくのは、
勇気やモチベーションではありません。
内省を続ける力、
つまり「自分とつながり続ける力」です。

EQという言葉の陰で見落とされがちなこの点を、
どう捉え直すのか。
それ自体が、この時代のリーダーシップと働き方を考える
一つの入口になるのかもしれません。


参考記事

Forbes JAPAN/
「『恐怖で支配する上司』のもとで自分を守り、成果を出すためのヒント」/
Rodger Dean Duncan/
https://forbesjapan.com/articles/detail/90465

INNERSHIFTからのお知らせ

INNERSHIFTでは、
感情と意思決定、対話、リーダーシップの関係を
Emotional Compass を通じて探究しています。

本記事で扱った内省継続力は、
恐怖や圧力の中で、
自分を見失わずに問い続けるための感情特性です。

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