インテグリティは大事だ、という点については、ほとんど異論はありません。
マネジメントやリーダーシップの文脈でも、この言葉は長く繰り返されてきました。
ピーター・ドラッカーが、「マネジャーに必要な根本的な資質はインテグリティである」と述べたことは、あまりにも有名です。
けれど、その言葉が示している意味を、いざ自分自身の判断や行動に引き寄せて考えようとすると、少し立ち止まってしまいます。
インテグリティとは、正直さのことなのか。
一貫性のことなのか。
それとも、信念を曲げない強さなのか。
どれも間違ってはいないようで、どれも、そのままでは少し足りない気もします。
「インテグリティは大事だ」という合意だけが先にあり、その言葉が、実際の判断の場面でどのように揺れ、どのように試されるのかは、あまり語られてきませんでした。
もしインテグリティが、固定された徳目や人格特性ではなく、判断の途中で揺れ動くものだとしたら。
その揺れを、人の弱さではなく、心の働きとして捉え直そうとした研究があります。
誠実であろうとする人ほど、判断は揺れる
社会心理学者のレオン・フェスティンガーは、人がどのようにして「自分は正しい」と感じ続けるのかを問い続けた研究者でした。
彼が提示した認知的不協和理論は、次のような前提に立っています。
人は、自分の信念や価値観、行動や発言が食い違う状態に置かれると、強い居心地の悪さを覚える。
この不快感を、フェスティンガーは「認知的不協和」と呼びました。
重要なのは、その不協和を解消する過程です。
人は必ずしも行動を変えるとは限らず、ときに、意味の捉え方や解釈そのものを調整することで、心のつじつまを合わせてしまう。
ここで語られているのは、人の不誠実さではありません。
むしろ、「誠実でありたい」「一貫した自分でありたい」という欲求が、どのように判断に影響を与えるのか、という視点です。
有名な実験が示したのは、「ずるさ」ではなかった
フェスティンガーの理論を象徴する実験として、しばしば紹介されるものがあります。
被験者に、どうしようもなく退屈な作業をさせたあと、次の参加者にその作業を紹介してもらう。
その際、あるグループには1ドル、別のグループには20ドルの報酬が支払われました。
どちらのグループも、「作業は面白かった」と伝えるよう求められます。
結果は直感と逆でした。
わずかな報酬しか受け取らなかった1ドルのグループのほうが、後になって「本当に面白かった」と感じる傾向を示したのです。
フェスティンガーは、この結果を次のように捉えました。
20ドルをもらった人は、「お金のためにそう言った」と自分を納得させることができる。
一方、1ドルではその説明が成り立たず、「嘘をついた自分」を正当化するために、作業そのものの意味づけが変わっていく。
ここで起きているのは、意図的なごまかしではありません。
誠実でありたい自己像を守ろうとする、その過程で、判断や解釈が静かに動いていく様子です。
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インテグリティは、守るものではなく引き受け続けるもの
この視点から見ると、インテグリティは「正しさを貫く力」や「一貫性を保つ能力」として固定できるものではなくなります。
正しくあろうとするからこそ、判断は揺れます。
一貫していようとするからこそ、関係との摩擦が生まれることもあります。
誠実さそのものが、判断を難しくしてしまう場面がある。
Emotional Compassでは、
[trait_13|インテグリティ](https://innershift.jp/twentyfour-traits/trait_13/) を、
良し悪しや能力としてではなく、判断や行動が崩れたり、支えられたりする結節点として捉えています。
それは、インテグリティを「守るべき性質」として扱うのではなく、
揺れや迷いを含んだ判断を、それでも引き受け続ける態度として捉え直す視点です。
判断を変えなかったのか。
それとも、意味のほうが変わっていたのか。
インテグリティは、正しさを証明するための言葉ではなく、
判断の重さとともにあり続けるための言葉なのかもしれません。
元記事・参考文献
- Leon Festinger (1957). A Theory of Cognitive Dissonance. Stanford University Press.
- Leon Festinger, James M. Carlsmith (1959). Cognitive Consequences of Forced Compliance. Journal of Abnormal and Social Psychology.
INNERSHIFTからのお知らせ
INNERSHIFTでは、
感情と意思決定、対話、リーダーシップの関係を
Emotional Compass を通じて探究しています。
本記事で扱ったインテグリティは、
正しさを守るための資質ではなく、
判断が揺れる状況の中で、感情とともに引き受け続けるための重要な特性です。
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