正論で勝つと、人は動かなくなる──任せられないリーダーの落とし穴|INNERSHIFT

執筆:最上 雄太

会議で、正しいことを言っている。
1on1でも、筋の通った指摘をしている。
それなのに、人が動かない。判断が返ってこない。

この違和感を抱えているリーダーは少なくありません。
問題は、正しさが足りないことではありません。
正しさが、先に出すぎていることにあります。

リーダーが任せられなくなるとき、最初に失うのは時間や効率ではありません。
失われているのは、判断が生まれる余地です。

正論で勝つと、人は動かなくなる

リーダーが正論を示した瞬間、場が静まる。
反論は出ず、異論もなく、話は一度終わったように見えます。

しかし、その沈黙は合意ではありません。
多くの場合、判断の主体が失われた状態です。

論破は、相手の思考を止めます。
正論で勝った瞬間、決める必要がなくなるからです。

会議や1on1で起きているのは、対立ではありません。
「誰が判断するのか」が、その場で回収されてしまう構造です。

正しさは、判断を前倒しで回収する力を持っています。
その結果、行動は生まれず、責任も残りません。

藤田晋が選び続けた「聞く」という苦行

この状態を、実践として示しているのが藤田晋です。

藤田は、東洋経済オンラインの記事
『正論で論破する人は「真のリーダーになれない」』の中で、
「人を動かす」ために、あえて主導権を渡し続けてきた経験を語っています。

象徴的なのが、オセロの比喩です。
相手に打たせる。自分はすぐに正解を示さない。

藤田が一貫して行っているのは、
相手に話させ、誤りをその場で指摘しないことです。

ここで重要なのは、これは優しさではないという点です。
聞くことは、戦略です。

判断を自分の手元に回収しないことで、
相手の中に判断を残す。
それが結果として、行動と責任を生みます。

沈黙が判断を生む理由

この実践は、個人の感覚や経験にとどまりません。
アダム・グラントは著書『Think Again』の中で、
リーダーが話しすぎるほど、認知的多様性が失われることを指摘しています。

正解を早く示すほど、
他の視点は出てこなくなります。

沈黙は、空白ではありません。
思考の余白を設計する行為です。

藤田の実践は、
「聞く人はすごい」という美談ではなく、
判断を後工程に残すための、再現可能な技術として理解できます。

聞くとは、判断を後工程に残すこと

論破とは、判断を奪う行為です。
聞くとは、判断を相手に残す行為です。

Emotional Compassの思想では、
感情は意味づけを経て、行動となり、関係をつくります。

正しさを先に出すと、
意味づけの工程が飛ばされます。
その結果、行動も関係も生まれません。

リーダーの役割は、
正解を出す人ではありません。
判断が生まれる場をつくる人です。

聞くこと、沈黙すること、論破しないことは、
弱さではなく、判断を守る設計なのです。

結語:問い

あなたは今、正しさで勝とうとしていないでしょうか。
もし一度だけ沈黙を選ぶとしたら、それはどの場面でしょうか。

その沈黙は、
誰の判断を守ることになるでしょうか。


参考文献

藤田晋(2025)
『正論で論破する人は「真のリーダーになれない」』
東洋経済オンライン
https://toyokeizai.net/articles/-/924720

Grant, A. (2021). Think again: The power of knowing what you don’t know. Wharton School Press.


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