「優等生」の落とし穴が、成長を止めるとき|INNERSHIFT

執筆:最上 雄太

頭の回転が速く、成果も出してきた。
周囲からの評価も高く、「できる人」として期待されてきた。
それなのに、ある地点から先に進めなくなる——。

こうした違和感は、決して珍しいものではありません。
ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー(DHBR)に掲載された
「優等生」の落とし穴(トーマス J. デロング/サラ・デロング)は、
この“伸び悩み”の正体を、35年・600人に及ぶカウンセリング経験から描き出しています。

この記事が扱っているのは、能力不足ではありません。
むしろ、優秀であることそのものが、成長を止めてしまう構造です。


なぜ「できる人」ほど、動けなくなるのか

DHBRの記事で繰り返し描かれるのは、
成功体験に守られてきた人ほど、試される場面を避けてしまうという逆説です。

それは怠慢でも慢心でもありません。
**「できない自分が見えてしまう恐怖」**が、行動を縛っていくのです。

記事に登場する営業幹部テッドや弁護士カートの姿は、
専門性や過去の成功が、かえって身動きを取りづらくしていく様子を静かに映しています。


優等生を縛るのは、能力ではなく「失敗の意味づけ」

この記事を読んでいて印象的なのは、
彼らが失敗そのものを恐れているというより、
失敗が「自分の価値を脅かすもの」になっている点です。

こうした意味づけのもとでは、
失敗は学習の入口ではなく、避けるべき危険になります。

その結果、
「本来なら成長につながるはずの挑戦」から、静かに遠ざかっていく。
これが、DHBRが描く「優等生の落とし穴」です。


失敗を“なかったこと”にしない力

この記事の終盤で示されるアプローチは、
単なる前向き思考ではありません。

どれも共通しているのは、
失敗を消そうとせず、関係の中に置き直していく姿勢です。

ここで重要なのは、
「失敗しない自分になる」ことではありません。
失敗を含んだ自分を、引き受け続けることです。


失敗受容力という特性

Emotional Compassでは、
この姿勢を 失敗受容力 という特性として捉えています。
https://innershift.jp/twentyfour-traits/trait_21/

失敗受容力とは、
うまくいかなかった経験を、単なる挫折として切り捨てず、
学びの機会として引き受け直す力です。

DHBRの記事に登場する人たちが直面していたのは、
失敗の有無ではなく、
失敗をどう扱うか、誰と共有できるかという問題でした。

失敗受容力は、
勇敢さでも、楽観性でもありません。
失敗を経験に変えるための、地道で人間的な力です。


成長が止まる地点に立ったとき

もし今、
「これ以上うまくやれなくなっている気がする」
「挑戦する前から、身構えてしまう」
そんな感覚があるとしたら。

それは、能力の限界ではなく、
これまでの成功のやり方が、通用しなくなっている合図かもしれません。

DHBRの「優等生の落とし穴」は、
その地点に立つ人に、答えを与える記事ではありません。
ただ、立ち止まって見直すための、確かな視点を置いてくれます。

失敗を避け続けることで守られるものと、
失敗を引き受けることで開かれるもの。
その違いを、静かに考えさせる一篇です。


参考文献


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