ポジティブ心理学の問い直し|2.0の議論から考えるリフレーミング|INNERSHIFT

執筆:最上 雄太

ポジティブ心理学は、長らく「前向きに生きるための心理学」として語られてきました。

幸福、強み、楽観、フロー。
人がよりよく生きるための条件を明らかにしようとするその試みは、
心理学を「問題を修復する学問」から解き放つ役割を果たしてきたように思います。

一方で、現場に立つと、どこか引っかかる瞬間もあります。

前向きに捉え直そうとしても、気持ちが追いつかない。
意味づけを変えたはずなのに、判断の重さが消えない。
「ポジティブであろう」とすること自体が、負担になる場面もある。

ポジティブ心理学は、いまもそのまま有効なのか。
それとも、問い直すべき地点に来ているのか。

ポジティブ心理学がもたらしたもの

ポジティブ心理学は、
人の欠陥や病理だけでなく、可能性や強みに目を向けることで、
心理学の射程を大きく広げてきました。

苦しみを減らすだけでなく、
よりよく生きる条件を探る。
その姿勢は、多くの実践や研究に影響を与えてきました。

ただ、この流れが広がるにつれ、
「ポジティブであること」そのものが、
暗黙の前提として置かれる場面も増えていきます。

前向きに考えること。
ネガティブな感情を切り替えること。
意味を肯定的に捉え直すこと。

それらは本当に、どんな状況でも有効なのでしょうか。

ポジティブ心理学第二波(2.0)が投げかけた問い

こうした問いに対して、
ポジティブ心理学の内部から異なる視点を提示してきたのが、
ポジティブ心理学第二波(Positive Psychology 2.0)と呼ばれる議論です。

この流れを代表する研究者の一人が、
ポール・T・P・ウォンです。

ウォンは、
幸福や楽観を否定したわけではありません。
むしろ、こう問い直しました。

苦しみや不安、喪失といった経験は、
本当に乗り越える対象なのか。
それとも、意味が立ち上がるための前提なのではないか。

第二波の議論では、
ネガティブな感情は「減らすべきもの」ではなく、
意味形成に関わる要素として扱われます。

意味は、
前向きに解釈した結果として生まれるのではなく、
苦しさや迷いとともに判断を引き受け続ける中で、
後から立ち上がってくるものだ、という考え方です。

意味は「楽になること」とは一致しない

この視点に立つと、
「意味づけを変えれば楽になる」という発想は、
少し違って見えてきます。

意味が見いだされたとしても、
不安や葛藤が消えるとは限らない。
前向きな言葉に置き換えても、
判断の重さが残る場面はあります。

ポジティブ心理学第二波が示したのは、
意味と快が必ずしも一致しない、という事実でした。

意味は、
楽になるための道具ではなく、
楽になれない状況の中でも判断を続けるための支えとして
現れることがある。

リフレーミングは、操作ではなく応答かもしれない

一般にリフレーミングという言葉は、
「見方を変える」「前向きに捉え直す」といった意味で使われがちです。

けれど、第二波の議論を踏まえると、
リフレーミングは、
意味を操作する技法というよりも、
状況や感情への応答として起きるものに近いようにも見えます。

意味は、
変えにいった瞬間に切り替わるのではなく、
迷いながら判断を引き受け続けた結果として、
いつの間にか違うかたちを取っている。

リフレーミングとは、
その変化に耐え、受け止める力なのかもしれません。

Emotional Compass におけるリフレーミング

INNERSHIFTの Emotional Compass では、
trait_14|リフレーミング力 を、
前向きに考える能力や思考の切り替えとしてではなく、
判断や意味が揺れ動く局面を支える特性として位置づけています。

それは、
苦しさを消すための力ではなく、
苦しさとともに判断を続けるための力です。

ポジティブ心理学第二波が投げかけた問いは、
リフレーミングを
「楽になるための技法」から解放し、
判断と意味の問題として捉え直す視点を与えてくれます。

参考文献

INNERSHIFTからのお知らせ

INNERSHIFTでは、
感情と意思決定、対話、リーダーシップの関係を
Emotional Compass を通じて探究しています。

本記事で扱ったリフレーミングは、
前向きに考えるための技法ではなく、
意味や判断が揺れる状況の中で、
それでも引き受け続けるための重要な特性です。

公式サイト
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Emotional Compass
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