スター人材は、条件ではなく「上司」を見ている
優秀な人材が離職するとき、私たちはつい理由を外に求めてしまいます。
報酬が足りなかったのではないか。市場価値が上がったのではないか。採用競争に負けただけではないか。
けれど、ハーバード・ビジネス・レビューやギャラップの調査が示しているのは、少し違う事実です。
スター人材は、仕事そのものではなく「上司」を見て去っている。
より正確に言えば、彼らはこう問い続けています。
この上司のもとで、自分は成長し続けられるのか。
成長の可能性が見えなくなった瞬間、どれほど条件が良くても、スター人材は次の場所を探し始めます。
人は仕事を辞めるのではない。上司の下から去る
ギャラップ(2022)の調査では、上司への信頼が高いほど、従業員の定着率が有意に高まることが示されています。
離職は、個人の気まぐれではなく、関係性の問題として起きているのです。
ハーバード・ビジネス・レビューに寄稿したレベッカ・ナイト(Rebecca Knight, 2025)も、
スター人材が選んでいるのは「優れた肩書き」ではなく、成長を支援してくれるマネジャーだと指摘しています。
仕事が大変だから辞めるのではありません。
信頼と成長の回路が見えなくなったとき、人は静かに去っていきます。
スター人材が去る組織に共通する「3つの欠如」
成長が「本人任せ」になっている
多くの組織では、成長が偶然に委ねられています。
忙しければ挑戦の機会が生まれ、そうでなければ現状維持が続く。
上司が意図的に成長を設計していないと、
「ここで何を学べばいいのか」「次に何が期待されているのか」が見えなくなります。
これは、心理的契約(Psychological Contract)──
組織と個人のあいだにある暗黙の期待が、更新されないまま放置されている状態です。
期待と役割が共有されていない
なぜこの仕事を任せるのか。
なぜこの人なのか。
それが説明されないまま任務だけが渡されると、
本人には重圧が、周囲には不公平感が生まれます。
ルソー(Rousseau, 1995)が示したように、
期待が言語化されない関係は、やがて信頼を失います。
スター人材ほど、このズレに敏感です。
対話が「評価」で止まっている
面談が過去の成果確認だけで終わっていないでしょうか。
数字や達成度は語られるが、次の挑戦は描かれない。
ギャラップ(2022)は、
成長に関する継続的な対話がエンゲージメントを高めると報告しています。
未来が語られない対話は、更新されない関係をつくります。
「成長させてくれる上司」が必ずしている3つのこと
まず、耳を傾ける
成長を支える上司は、役割ではなく「人」に向き合います。
何をしているかより、いま何を意味づけているかを聴こうとします。
フランクリン・コヴィーのトッド・デイビス(Todd Davis)は、
信頼は理解から始まると実務の中で語っています。
これは心理的契約理論の、現場での応用と言えるでしょう。
挑戦を「任せる」のではなく「設計する」
仕事を渡すだけでは、成長は起きません。
どこでつまずき、何を学ぶかまで含めて設計されてはじめて、挑戦になります。
ワイク(Weick, 1995)の意味づけ(Sensemaking)理論が示すように、
仕事の意味が共有されると、人は前に進めます。
成果よりも、学びの質に目を向けているか。
それが上司の分かれ目です。
公正さを壊さず、個別性に応える
スター人材を特別扱いする必要はありません。
必要なのは、なぜこの役割をこの人に任せるのかを言語化することです。
役割が明確になれば、周囲の納得も生まれます。
個別性と公正さは、対立するものではありません。
スター人材は「評価」ではなく、「更新」を求めている
スター人材が見ているのは、
この上司の下で、自分は更新され続けるかという一点です。
成長は、善意では起きません。
仕組みとして設計されているかどうかで決まります。
あなたのチームには、
成長が偶然ではなく、意図的に設計された時間があるでしょうか。
参考文献
Knight, R. (2025).
Why star performers choose managers who help them grow.
Harvard Business Review.
(邦題:『スター人材は「成長させてくれる上司」を選ぶ』DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー)
Gallup. (2022).
The relationship between trust and employee retention.
Gallup, Inc.
Rousseau, D. M. (1995).
Psychological contracts in organizations: Understanding written and unwritten agreements.
Sage Publications.
Weick, K. E. (1995).
Sensemaking in organizations.
Sage Publications.
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