好調なのに、何かがおかしい
売上は伸びている。
KPIも計画どおりに達成されている。
会議では、問題らしい問題は報告されない。
それでも、どこかに違和感が残る。
現場で起きているはずの懸念や小さな警告が、言葉になって上がってこない。
問題は、本当に「起きていない」のでしょうか。
それとも、問題として扱われなくなっているのでしょうか。
測れる成功が、判断を狭めていく
成果が出ている組織では、意思決定は次第に数値に支配されていきます。
売上、成長率、達成率──測れる指標が、判断の正しさを保証するものとして扱われるからです。
心理学者のバリー・シュワルツ(Barry Schwartz)は、
人は評価される指標に適応し、その結果、本来大切だった意味や動機が、
数字に置き換えられ、やがて判断の外に追い出されていくと述べています。
測定や評価そのものが悪いわけではありません。
問題は、それが唯一の判断基準になったときです。
測れない声。
まだ言語化されていない違和感。
説明しきれない懸念。
それらは、数値の外側にあるという理由だけで、
「存在しないもの」として扱われ始めます。
好調な組織ほど、この構造に気づきにくくなります。
それでも人は「見えている」と思ってしまう
それでも、組織の中の人はこう感じています。
「必要な情報は見えている」「判断材料は揃っている」と。
社会学者のカール・ワイク(Karl E. Weick)は、
人は現実をそのまま見ているのではなく、
共有されている意味づけを通して世界を理解していると指摘しました。
好調という物語が組織に共有されると、
その物語に合わない情報は、否定される以前に解釈されなくなります。
警告は、拒否されるのではありません。
意味を与えられないまま、通り過ぎていきます。
モノローグ組織という構造
なぜ、このようなことが起きるのでしょうか。
この記事を執筆した最上雄太は、その背景にある構造を**「モノローグ組織」**と呼んでいます。
モノローグ組織では、説明はあります。
資料も共有され、情報も流れています。
しかし、そこに問いがありません。
情報は一方向に流れるだけで、往復しないのです。
成功が続くほど、
「今はうまくいっている」という前提が強化され、
問いを立てる必要性そのものが見えなくなっていきます。
早期警報が届く組織とは何か
早期警報が機能する組織は、
単にステークホルダーの声を「聞いている」わけではありません。
重要なのは、
測れない声を扱う前提が、最初から設計されているかどうかです。
・数値にならない違和感を、どこで扱うのか
・説明できない懸念を、誰がどう受け止めるのか
・対話が気分や勇気ではなく、仕組みとして存在しているか
それがなければ、
警告は「空気を読まない発言」として処理されてしまいます。
好調なときほど、問い直す
成果が出ているときほど、
私たちは結果に安心し、構造を問い直すことを後回しにします。
けれど、本当に問うべきなのは次のことです。
何が測られ、何が捨てられているのか。
どの違和感が、語れなくなっているのか。
好調なときほど、
成果ではなく、構造を問いとして残せているでしょうか。
参考文献
シュワルツ, B.
『なぜ働く意味が失われてしまうのか(Why We Work)』
ワイク, K. E.
『センスメイキング・イン・オーガニゼーションズ(Sensemaking in Organizations)』
ベラスケス, L.(2025)
「なぜ好業績のリーダーほど、組織のゆがみを見落とすのか」
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー
INNERSHIFTからのお知らせ
Emotional Compass(現在、最終調整中)は、
感情・行動・関係のつながりを見つめ直すためのリーダーシップ指針です。
📘 公式サイト:https://innershift.jp
✍️ JOURNAL:https://innershift.jp/journal
🧭 Emotional Compass:https://innershift.jp/compass
📚 INNERSHIFTの思想を支える書籍:https://innershift.jp/book/
🎥 YouTube:https://www.youtube.com/@INNERSHIFT
💼 LinkedIn:https://www.linkedin.com/in/yutamogami/
🐦 X(旧Twitter):https://x.com/INNERSHIFT_JP
📘 Facebook:https://www.facebook.com/INNERSHIFT