リーダーは部下の代わりに問題を解決してはいけない。
この言葉自体は、決して新しいものではありません。現場でマネジメントに携わる人ほど、「それはそうだ」と頷けるはずです。
それでも、なぜ私たちは今日も、部下の問題を引き取ってしまうのでしょうか。
そこには、怠慢や支配欲ではなく、善意があります。
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビューに掲載された、エリザベス・ロタードによる論考は、この「善意」が生む関係の循環を、具体的な場面から描き出しています。
「助けたい」が始まりだった──HBRが描く、ある上司と部下の関係
原文で紹介されるのは、営業リーダーのスベンと、その上司ローラのやりとりです。
トラブルを抱えたスベンの相談に対し、ローラはこう問いかけます。
「私がどのようなサポートをする必要がありますか」
この一言は、支配的でも冷淡でもありません。むしろ、寄り添う姿勢に満ちています。
実際、この時点では両者に安心感が生まれました。
「この時点では、2人とも安心感を得ることができた。」
しかし、このやりとりが繰り返されるにつれ、状況は変わっていきます。
「やがて同様のパターンが繰り返されるようになり、安心感は次第に薄らいでいった。」
結果として、上司は燃え尽き、部下は無力感を深め、成果も落ち込んでいく。
HBRはこの流れを、学習性無力感や決断疲れの研究とも結びつけながら、次のようにまとめています。
「意思決定のボトルネックをつくり出し、メンバーの当事者意識を弱め、マネジャーの燃え尽きを加速させる。」
善意は、どこで当事者意識を遠ざけるのか
ここで注目したいのは、「問いかけが足りなかった」「問いの質が悪かった」という話ではありません。
むしろ、問題は問いの前段にあります。
ローラが引き受けたのは、問題そのもの以上に、安心感の責任でした。
「この状況は、私が何とかする」。その暗黙のメッセージが、関係の中に立ち上がります。
すると、次の配置が起きます。
- 不安や焦りといった感情の処理は、上司側へ
- 意味づけや判断の重みも、上司側へ
- 部下は「考える主体」から「報告する主体」へ
この移動は、誰かの意図ではなく、関係の中で自然に起こります。
善意が、結果として当事者意識を遠ざける配置をつくってしまうのです。
問題はスキルではなく、関係の中で何が引き取られているか
INNERSHIFTの視点では、ここで起きているのは能力や姿勢の問題ではありません。
特性を「持っているかどうか」の話でもない。
焦点は、関係の中で、何が誰に引き取られているかです。
- 安心感は誰が引き受けているか
- 判断の責任はどこに集まっているか
- 行動の重みは、どちらに残っているか
支えるほど、弱くなる。
それは、支援そのものが悪いからではありません。
善意が、気づかないうちに関係の役割を固定し、考える余地を奪ってしまうからです。
あなたが誰かを助けたくなったとき。
その瞬間、関係の中で、何を引き取ろうとしているのか。
そして、その結果、誰の当事者意識が遠ざかっているのか。
その問いが残ること自体が、関係を変える一歩なのかもしれません。
参考文献
- DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー
ロタード,E.(2025)
「リーダーは部下の代わりに問題を解決してはいけない──自律的なチームを育てる『5つの質問』」
https://dhbr.diamond.jp/articles/-/12458
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