感情は、感じるだけでは届きません。
私たちがその思いや気づきを「言葉」にしたとき、初めて誰かに伝わります。
内省とは、心の中を見つめるだけでなく、見つめたものを他者に開く力でもあります。
Emotional Compassでは、本特性は自己認識(SA)因子に属します。
たとえば、部下との対話のなかで、自分の戸惑いや迷いを率直に言葉にした瞬間、
相手が「この人も同じように感じているんだ」と安心した表情を見せることがあります。
それは、リーダーが弱さを見せたからではなく、感じていることを誠実に表現したからです。
その言葉が、関係に“呼吸の余白”を生み出します。
内省表現力とは、自分の感情や学びを閉じ込めず、共有する力のことです。
それはスピーチの巧さではなく、気づきを伝わる形に変える知性です。
自分の内にある感情を言葉にできたとき、理解が生まれ、共感が芽吹きます。
この表現の循環こそが、チームを支える静かな信頼の土壌になります。
感情を言葉にするとき、理解が生まれます
心理学者ジェームズ・ペネベーカー(James W. Pennebaker)は、
『感情を表現することの力(Opening Up: The Healing Power of Expressing Emotions)』(1997)で、
「感情を言葉にする行為(emotional disclosure)」が心の整理と自己理解を促すことを明らかにしました。
彼は、多くの実験を通して、感情的な出来事を文章にした人たちの方が、
そうでない人たちよりもストレスが減り、思考の明晰さや人間関係の満足度が高まることを示しています。
ペネベーカーは次のように述べています。
“By writing or speaking about emotional experiences, we make sense of them.”
(感情的な経験を言葉にすることで、私たちはそれを理解できるようになる。)
ここでいう「理解」とは、単なる知的な理解ではありません。
それは、自分の中にあった漠然とした感情に輪郭を与え、
「自分がなぜそう感じたのか」を意味づけするプロセスです。
この理論は、リーダーシップの文脈でも深く響きます。
リーダーが自分の感情や気づきを誠実に言葉にするとき、
その言葉はチームに共感の空気を生み出します。
語られた内省は、聞く人に「自分も感じていいのだ」という安心感をもたらし、
それが心理的安全性を育てるきっかけになります。
Emotional Compassが重視する「自己認識(Self-Awareness/SA)」の成長は、
まさにこのプロセスと重なります。
感じたことを閉じ込めず、言葉として差し出すことで、自分と他者のあいだに橋が架かる。
内省表現力は、その橋を築くための感情知性の実践なのです。
自分の気づきを言葉にすることが、信頼を生みます
最上雄太(2025)『人を幸せにする経営』(国際文献社)では、こう述べています。
「自分の内省を言葉にすることは、他者を理解するための第一歩である。」
感じたことを言葉にする行為は、単なる自己表現ではなく、
他者に届くかたちで自分を開くことです。
そこにあるのは「見せるための語り」ではなく、「分かち合うための語り」。
誠実に語られた言葉は、聴く人の心をやわらげ、共感の空気を生み出します。
リーダーが自分の戸惑いや学びを言葉にできるとき、チームはその言葉に人間的な温度を感じます。
それは完璧さではなく、「この人も同じように悩んでいる」という安心感。
そうした小さな共有が、チームの心理的安全性を静かに育てていくのです。
感情を言葉にする力──それは、自分と他者を結ぶ透明な糸のようなものです。
その糸を一本ずつ紡いでいくことで、信頼という布が編まれていきます。
あなたはいま、どんな感情を言葉にしたいと思いますか。
その小さな言葉から、誰かとの共感が生まれるかもしれません。
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参考文献
- Pennebaker, J. W.(1997)『感情を表現することの力(Opening Up: The Healing Power of Expressing Emotions)』Guilford Press.
- 最上雄太(2025)『人を幸せにする経営』(国際文献社) https://amzn.to/48rqTqt
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