感情を抑えるのではなく、理解する──リーダーに必要な内的視点|INNERSHIFT

執筆:最上 雄太

🌿 感情の渦中で、少し高い場所に立つように

忙しい毎日のなかで一人になる時、ふと自分の感情を見つめ直す瞬間があります。怒りや不安、焦りや迷いに包まれているとき、私たちはついその波に飲み込まれてしまいがちです。けれども、感情のただ中にいるときこそ、自分の中で何が起きているのかを静かに観察することができます。

「今、自分は怒っているな」「これは不安から来ているのかもしれない」と気づけた瞬間、感情はただの反応ではなく、自分を理解するための手がかりになります。その気づきをもたらす力が、感情俯瞰力(Emotional Overview)です。


🌾 感情を抑えるのではなく、理解する力

感情俯瞰力とは、感情を抑え込むのではなく、理解し、受けとめる力です。怒りや不安といった感情を“敵”として扱うのではなく、“語りかけてくる存在”として尊重する。そうすることで、リーダーはより深く自分を理解し、他者にも穏やかで開かれた姿勢を保つことができます。

感情を整理するだけではなく、感情を通じて自分を知る。その過程にあるわずかな「間」が、思考を整え、行動を導く羅針盤になります。

感情俯瞰力は、Emotional Compassでは、本特性は自己管理(SM)因子に属します。特性です。自分の内側で起きている変化を見つめ、その意味を考え、次の一歩を選び取る力といえます。
この特性は、「感情を整理する」段階を越えて、「感情を通して自分と対話する」段階へと進むための知性です。


🌬 感情と反応のあいだに、“間”をつくる

感情を俯瞰するとは、感情を切り離すことではありません。むしろ、自分の感情と穏やかに距離を取りながら、その意味を理解する姿勢です。

心理学者スーザン・デイヴィッドとクリスティーナ・コングルトン(Susan David and Christina Congleton, 2013)は、ハーバード・ビジネス・レビュー掲載論文「エモーショナル・アジリティ(Emotional Agility)」の中で次のように述べています。

“The goal is not to suppress emotion, but to create space between feeling and reaction.”
(感情を抑え込むことが目的なのではなく、感情と反応のあいだに空間をつくることが目的である。)

この言葉が示しているのは、感情を排除するのではなく、「感じること」と「行動すること」の間に小さな“間”を置くという考え方です。
その“間”の中で、人は自分の感情に立ち止まり、「なぜ、そう感じたのか」を確かめることができます。たとえば、怒りの裏にある不安や、焦りの奥にある期待に気づいたとき、私たちは感情を通して自分の本当の願いや価値観を見出すことができます。

感情を俯瞰する力とは、感情の波を止めることではなく、波と波のあいだにある思考の余白を見出す力です。その余白の中で、自分の感情を丁寧に観察し、自分にとって意味のある行動を選び取っていくことができるのです。


🤝 感情を共有できることが、信頼の土台になる

感情を俯瞰できる人は、自分の内面を理解するだけでなく、他者との関係にも安定をもたらします。
最上雄太(2022)『シェアド・リーダーシップ入門』(国際文献社)では、「感情を共有できるリーダーが、チームの安全基地をつくる」と述べています。

リーダーが自分の感情を言葉にし、率直に表現できるとき、メンバーもまた安心して本音を語ることができます。
それは、感情を一方的に吐露するということではなく、「今の自分は少し不安だ」「この状況に戸惑っている」と正直に伝える姿勢です。
その誠実な姿勢が、チームの中に相互理解の空間を生み出し、信頼の循環を育てていきます。

感情を俯瞰する力は、自己理解のためだけにあるものではありません。
感情を見つめ、整理し、言葉にできる人は、他者の感情にも丁寧に関われるようになります。リーダーが自分の内側を理解することは、同時に「相手の内側にも気づける力」を育てることにつながるのです。


🔎 感情との対話が、次の行動を導く

感情を俯瞰することは、感情を整理して終わりにすることではありません。
むしろ、感情の中にあるメッセージを受けとめ、自分にとって意味のある行動へとつなげることです。

怒りは、何かを守りたいというサインかもしれません。
不安は、これから挑戦しようとする気持ちの裏返しかもしれません。
そうした感情の一つひとつを、判断の材料として扱うことで、リーダーはより意図のある選択ができるようになります。

感情俯瞰力とは、感情を遠ざける力ではなく、感情と建設的に向き合う力です。感情を理解し、それを自己との対話に変えることができれば、状況の中に埋もれていた意味が見えてきます。

あなたは今、どんな感情の“声”を聴こうとしていますか。
その声に耳を澄ませるとき、新しい自分の一歩が始まるのかもしれません。


📚 参考文献


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