インテグリティ──言動の一致が、信頼を生み出すリーダーシップ

執筆:最上 雄太

信頼は、どれだけ立派な言葉を語るかではなく、言葉と行動が一致しているかで測られます。
誰も見ていない瞬間の行動こそが、その人の真価を語ります。
誠実さとは、相手に向けて語る力強いメッセージではなく、自分が選び続ける行動の一貫性にあります。

Emotional Compassでは、本特性は関係管理(RM)因子に属します。

たとえば、忙しさのなかで「あとで話します」と言いながら、その約束を果たせなかった経験はないでしょうか。
ほんの些細なことのように見えても、相手の心には「自分は大切にされているだろうか」という疑念が残ります。
その小さなずれが、信頼を静かに揺らしてしまうのです。

リーダーの言葉は、チームの空気をつくります。
だからこそ、何を語るか以上に「どう行動するか」が問われます。
言動に一貫性がなければ、信頼はすぐに揺らぎます。
それは能力や戦略の問題ではなく、日々の小さな言動の一致──インテグリティ(Integrity)の問題です。

インテグリティとは、誠実であることを意味しますが、その本質は“正しさ”ではありません。
それは、自分の価値観と他者の期待をつなぎ、言動の一致を通じて信頼を築く力です。
この一貫性こそが、組織の心理的安全性を支える見えない根になります。


「言葉と行動のずれ」は、信頼をどれだけ奪うのか

組織行動学者トニー・シモンズ(Tony Simons)は、
「Behavioral Integrity(行動の誠実さ)」という概念を提唱しました(Simons, 2002)。
それは、“言葉と行動の一致の知覚”──人々がリーダーを見たとき、
その言動が本当に一致していると感じられるかどうかを指します。

シモンズは述べています。

“When managers’ words and deeds are misaligned, trust erodes swiftly and recovery is difficult.”
(マネジャーの言葉と行動がずれた瞬間、信頼は急速に失われ、回復は困難になる。)

この研究では、上司の行動の誠実さがチームの心理的安全性や職務満足に強く影響することが示されています。
言動が一致しているリーダーのもとでは、メンバーは安心して意見を交わし、挑戦し、互いを支え合うようになります。
一方で、言葉と行動のずれは、たとえ小さくても信頼を損ねるきっかけになります。

重要なのは、「誠実さ」を意識や理念ではなく、日々の行動として実践することです。
どんなに正しいことを語っても、行動が伴わなければ信頼は育ちません。
信頼とは理念ではなく、一貫した行動の積み重ねによって築かれるものなのです。


「小さな約束」を守ることが、最も大きな信頼をつくる

最上雄太(2025)『人を幸せにする経営』(国際文献社)では、こう述べています。

「信頼は言葉ではなく、行動の一貫性として現れる。小さな約束を守る力が、組織の背骨になる。」

誠実であるとは、立派な理念を掲げることではありません。
むしろ、日々の小さな言動に一貫性を持ち続けることです。
約束を守る、言葉に責任をもつ、姿勢を貫く──そうした積み重ねが、周囲の安心感を支えます。

一度失われた信頼を取り戻すことは、容易ではありません。
だからこそ、リーダーは「誠実である」という選択を、毎日繰り返す人である必要があります。
その姿を見たとき、周囲は「この人の言葉は信じていい」と感じ、行動の輪が生まれていくのです。

信頼は、リーダーの言動が一致しているかどうかという“見えない根”から育ちます。
あなたの言葉と行動のあいだに、いまどんなずれがありますか。
その小さな整合を取り戻すことから、チームの信頼は静かに再生していきます。


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参考文献


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