判断とは、整え続けるプロセスである|情動調整力が支える意思決定|INNERSHIFT

執筆:最上 雄太

脳神経手術において、
何事も「予定通りに進む」ということは、ほとんどありません。

患部を開いて初めて見えるものがあり、
血管の走行も、組織の状態も、人によって異なる。

Diamond Harvard Business Review に掲載された論考の中で、
脳神経外科医の 加藤 庸子 さんは、
判断について次のように語っています。

「驚きや焦りは判断を鈍らせるため、
私にとって最初に整えるべきは前提なのである」

想定外は、起きるもの。
そう前提を置いているからこそ、
何かが起きた瞬間にも、動揺せず、手を止めずにいられる。

ここで語られているのは、
判断の速さでも、決断力の強さでもありません。

判断に入る前の状態を、どう保っているか
その一点です。


判断は、瞬間ではなく連続している

手術の現場では、
一度の大きな判断ですべてが決まることはありません。

どの角度で入るか。
どこまで切るか。
いまの手応えはどうか。
次に、どこを見るか。

数十回、数百回の小さな判断が、
一つの流れをつくっていきます。

だからこそ、
一度感情に引きずられてしまうと、
その後の判断すべてに影響が及びます。

驚きや焦りが入り込めば、
視野は狭まり、
戻る場所を見失ってしまう。

加藤さんが語る
「最初に前提を整える」という姿勢は、
判断を誤らないためというより、
判断を続けられる状態を保つためのものだと読めます。


Emotional Compassでいう「情動調整力」

Emotional Compassでは、
この「判断に先立つ状態」を支えている力を、
情動調整力という特性で扱っています。

情動調整力は、
感情を抑え込む力ではありません。

また、
常に冷静でいることを求めるものでもありません。

想定外の出来事に出会ったとき、
驚きや焦りが生じること自体は、自然な反応です。

重要なのは、
その感情に飲み込まれきる前に、
次の行為に移れる位置へ戻れるかどうか

判断とは、
正しい答えを選ぶ行為というより、
整え直しながら前に進むプロセス。

情動調整力は、
そのプロセスを壊さずに保つための、
静かな基盤だと言えます。

▶ trait_06|情動調整力
https://innershift.jp/twentyfour-traits/trait_06/


極限の現場が示しているもの

脳神経手術は、
最も判断の失敗が許されない現場の一つです。

その現場で語られているのが、
「速く決めること」でも、
「迷わないこと」でもなく、

**「最初に整える」**という言葉であることは、示唆的です。

準備とは、
答えを決めておくことではありません。

可能性の幅を持ったまま、
想定外を受け止められる状態でいること。

その姿勢があるからこそ、
一つ前の段階に戻り、
次の判断を積み重ねていける。

判断の質は、
判断の前に、すでに形づくられている。
加藤さんの言葉は、そう語っているように見えます。


日常の判断に引き戻すと

私たちの日常は、
脳神経手術ほど切迫してはいません。

それでも、
想定外は起こります。

会議での予期せぬ反応。
計画の変更。
トラブルの発生。

その瞬間、
私たちはすでに、
何らかの感情の中にいます。

情動調整力とは、
その感情を消すことではなく、
判断を壊さない位置へ、
自分を戻す力です。

判断とは、
一度で終わるものではありません。

整え、進み、また整え直す。
その繰り返しの中に、
判断という行為は存在しているのかもしれません。


参考文献


INNERSHIFTからのお知らせ

INNERSHIFTでは、
感情と判断、リーダーシップの関係を
Emotional Compassというフレームを通して探究しています。

診断結果から特性ガイドへ、
その人自身の言葉で振り返り、
次の一歩を考えるためのリソースを用意しています。

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