会議は予定どおり終わり、
意思決定も滞りなく進みました。
参加者は静かにうなずき、
場の空気も穏やかでした。
ただ、そのやり取りのあと、
「いまの決定は、どう受け止められているのだろう」と
ふと立ち止まる瞬間はないでしょうか。
ここで言う「ナッジ」は、
研修や面談のように時間を切り分けて行うものではありません。
会議のあとや移動の途中、
日常業務の流れの中で交わされる、
ほんの短い問いかけや確認のことです。
何かを教えたり、導いたりするための手法というより、
相手が自分の経験を振り返り、
言葉にして持ち帰るための、
ささやかな刺激に近いものだと捉えています。
こうした関わり方は、
Diamond Harvard Business Review に掲載された記事では、
コーチングの文脈の中で解説されています。
ただし、そこでも強調されているのは、
スキルやツールとしてのコーチングではなく、
インフォーマルで、その場限りの短いやり取りでした。
本記事では、それを
「コーチング」という枠から少し離し、
日常の中で人を前に進める
ナッジとして捉え直してみたいと思います。
なぜ「特別な時間」を設けなくてもよいのか
人を育てる場面というと、
1on1や評価面談、育成計画といった
“きちんとした時間”を思い浮かべがちです。
もちろん、そうした場が不要だという話ではありません。
ただ、実際の現場を振り返ると、
人の行動や考え方が少し動くのは、
もっと日常的で、偶然に近い瞬間であることも多いのではないでしょうか。
会議後に交わされた、たった一言。
移動中に投げかけられた、短い問い。
Slackでの、ほんの一往復。
それらは指示でも評価でもなく、
相手に「考える余地」を残す関わり方です。
短い往復が残すもの
ナッジが作用するのは、
その場で何かが“解決する”ときではありません。
むしろ、
その場では結論が出ないまま、
あとになって言葉が残るときです。
「さっきのやり取り、どう感じた?」
「どこが一番うまくいったと思う?」
こうした問いは、
答えを引き出すためのものではありません。
自分の経験を、
自分の言葉で捉え直すための
小さなきっかけとして機能します。
ナッジは、教えない
ここで重要なのは、
ナッジが「正解」を渡さないことです。
評価もしない。
方向づけもしない。
解釈を上書きもしない。
ただ、
経験をそのまま通り過ぎさせず、
一度、立ち止まらせる。
その結果として、
相手の中に言葉が生まれる。
この距離感が保たれているとき、
ナッジは押しつけにならず、
対話として成立します。
言葉が残るということ
Emotional Compassでは、
こうした変化を
内省表現力という特性で扱っています。
内省表現力とは、
自分の経験や感情を振り返り、
言葉として外に出せる力のことです。
ナッジは、この力を直接育てようとするものではありません。
けれど結果として、
短い往復の積み重ねが、
内省を言葉にする回路を少しずつ開いていきます。
▶ trait_15|内省表現力
https://innershift.jp/twentyfour-traits/trait_15/
日常の中で起きていること
ナッジは、
新しい制度でも、特別なスキルでもありません。
すでに多くの現場で、
名前のつかないまま起きているやり取りです。
それを
「コーチング」と呼ぶかどうかよりも、
その短い往復が
人に何を残しているのか。
そこに目を向けることが、
日常の中で人を前に進めるための、
一つの手がかりになるのかもしれません。
参考文献
- ルチラ・チャウドリー
「日常業務の中で部下を成長させるコーチングの手法──特別な時間を設ける必要はない」
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー
https://dhbr.diamond.jp/articles/-/13057
(本記事では、上記論考で紹介されているインフォーマルな関わり方を、
「コーチング」ではなく「ナッジ」という視点から再整理しています。)
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