優れたリーダーに必要なのは「魔法」ではない|共感的感度が生む存在感|INNERSHIFT

執筆:最上 雄太

優れたリーダーに必要なのは「魔法」ではない
──人は、そこに「いてもらえている」と感じているか

リーダーシップは、ときに神秘的なものとして語られます。
限られた人だけが持つ資質、説明しきれないカリスマ、ある種の「輝き」。
そうしたものが、優れたリーダーとそうでない人を分けている──そんな物語はいまも根強く残っています。

しかし、Forbes JAPAN に掲載された
優れたリーダーに必要なのは『魔法』ではなく『日常的なスキル』
(著者:Rodger Dean Duncan)は、その見方に明確な異議を唱えています。

この記事で紹介されているのは、元NBA選手であり、現在は組織心理学者として活動する ジョン・アマエチ の研究と実践です。
アマエチ氏は、リーダーシップを「魔法」のように扱う語りに、長年強い違和感を抱いてきた人物です。

「魔法ではない」という結論が示しているもの

アマエチ氏の結論は、拍子抜けするほど率直です。
優れたリーダーシップは、生まれつき備わった特別な能力ではない。
それは、日常の中で繰り返される、ごく普通のスキルの組み合わせにすぎない。

彼はこの前提を確かめるために、自身の行動や関わり方を、エクセター大学の同僚たちに観察してもらいました。
そこから見えてきたのは、カリスマ的な振る舞いや特別な才能ではなく、
「非常に日常的なスキルの組み合わせ」だったと語られています。

その中でも、彼が繰り返し言及しているのが「存在感」という要素でした。

人は、共感をどのように感じ取っているのか

Forbes JAPANの記事では、英国最大級の病院システムを対象とした研究が紹介されています。
この研究で注目されたのは、医療技術の高度さや説明の巧みさではありません。

患者の回復に影響していたのは、
「この外科医は、自分のことを本当に気にかけていると患者が感じたかどうか」
という点でした。

外科医の存在感、やり取りの真正性、そして関係が単なる事務的なものではなかったこと。
それらが、患者の体験と結果に大きな違いを生んでいたのです。

アマエチ氏は、同じ力学が組織の中でも起きていると指摘します。
部下と同じ空間にいながら、注意や関心が別のところに向いているマネージャー。
人はそうした状態を非常に敏感に感じ取ります。

「見られていない」「関心を向けられていない」と感じた瞬間、
人は意見を出すのをやめ、関係の中で一歩引いてしまう。
それが、パフォーマンスの低下につながっていくと、記事は伝えています。

Emotional Compassにおける「共感的感度」

Emotional Compassでは、こうした力を
共感的感度(trait_07) として整理しています。

共感的感度とは、
相手の感情や状態を読み取り、
「自分はいま、この人に向き合っている」と伝わる関わり方ができているかを感じ取る力です。

それは、優しく振る舞うことや、好かれることとは異なります。
相手が安心して考えや意見を差し出せる状態が、いまこの場にあるかどうか。
その微妙な変化を察知し、関係の質として保つ力が、共感的感度です。

Emotional Compass|共感的感度(trait_07)

「優しさ」ではなく、環境をつくるという行為

アマエチ氏は、共感を「優しくあること」と誤解する危険性にも言及しています。
重要なのは、相手に迎合することではありません。

人が自分の考えを共有しようと思える環境が、そこにあるかどうか。
表情、姿勢、相手に体を向けるかどうか、話を聞くときの間の取り方。
そうした一つひとつの行動が、関係の空気を形づくっていきます。

記事では、アマエチ氏がNBA選手時代に経験したエピソードも紹介されています。
若手選手が短期間で高級車を購入したとき、ベテラン選手は叱責ではなく介入を選びました。
将来を守るための現実的な助言を行ったその行動を、アマエチ氏は「リーダーシップ」だと受け取ったと語っています。

人は、そこに「いてもらえている」と感じているか

Forbes JAPANの記事が一貫して示しているのは、
リーダーシップは派手な瞬間ではなく、日常の関わりの質によって立ち上がる、という事実です。

人は、自分が見られているか。
関心を向けられているか。
そこに「いてもらえている」と感じられるか。

その感覚によって、話すか、黙るか、関わり続けるかを判断しています。

魔法は必要ありません。
必要なのは、日常の中で、意図的に存在し続けること。
共感的感度は、そのための特別な才能ではなく、磨かれうるスキルなのかもしれません。


元記事


参考文献


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