AIの急速な進展、予告なく変わる政策や規制、地政学的な緊張。
現代のリーダーは、「先が見えない」状況を前提として意思決定を迫られています。
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビューに掲載された
**エリック・ソロモン、アナップ・スリバスタバによる論考
「制御不能な状況に陥った時、リーダーが取るべき5つのステップ」**は、
こうした時代において、リーダー自身が強い不安にさらされている現実を描き出しています。
(出典:DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー
https://dhbr.diamond.jp/articles/-/13167)
本稿では、この論考を丁寧に参照しながら、
**Emotional Compassの特性「意図共有力」**という観点から、
「制御不能な状況で、リーダーは何を共有すべきなのか」を考えていきます。
不安が広がるとき、組織で最初に失われるもの
ソロモンとスリバスタバは論文の中で、
現代のリーダーが直面する不安の背景として、次のような要因を挙げています。
- 政策や規制の変動性
- AIが浸透することによる役割や仕事の不確実性
- 地政学的な分断による経営環境の複雑化
これらが重なり合うことで、
リーダーは「答えを持っているふり」を続けながら、
内側では強い緊張と不安を抱え込む状態に置かれている、と指摘されます。
ここで注目すべきなのは、
不安そのものよりも、不安が共有されないことです。
不安が言語化されないまま組織に広がるとき、
現場では次のような現象が起こりやすくなります。
- 判断の背景が見えず、指示が場当たり的に感じられる
- メンバーが「何を優先すべきか」を自分なりに解釈し始める
- 結果として、行動の方向性がばらつく
これは、能力ややる気の問題ではありません。
**「意図が共有されていない状態」**が生み出す、構造的なズレです。
「安心させること」と「意図を共有すること」は別物である
不確実な状況に直面したとき、
リーダーは無意識のうちに「不安を取り除こう」としがちです。
しかし、ソロモンとスリバスタバの論考が示しているのは、
不安を消そうとすること自体が、必ずしも有効ではないという点です。
不安は制御できなくても、
不安の中で、何を大事にしようとしているのかは共有できる。
ここで重要になるのが、
Emotional Compassにおける 意図共有力 という特性です。
(特性ガイド:https://innershift.jp/twentyfour-traits/trait_11/)
意図共有力とは、
「すべてを説明する力」でも
「不安を消す言葉をかける力」でもありません。
- 何がまだ決まっていないのか
- それでも、何を守ろうとしているのか
- どの方向に進もうとしているのか
こうした判断の軸や前提を、言葉として差し出す力です。
制御不能な状況で、リーダーが共有すべきもの
ソロモンとスリバスタバは、
不安が強まると、脳は脅威検知にリソースを割き、
視野が狭くなることを神経科学の研究をもとに指摘しています。
この状態で細かな指示や手順だけを共有しても、
メンバーは「なぜそれをやるのか」を見失いやすくなります。
だからこそ必要なのは、
次のような情報です。
- この判断は、何を優先した結果なのか
- 何をコントロールしようとしていないのか
- どこまでが仮の決定なのか
意図共有力が発揮される場面とは、
答えを示すときではなく、答えが出ていない状態をそのまま扱うときです。
不安を前提にしながら、
それでも「この組織として、何を大切にして進むのか」を共有できるかどうか。
それが、制御不能な状況におけるリーダーシップの分かれ目になります。
意図が共有されている組織は、判断が分散しない
意図が共有されている組織では、
メンバーは「正解」を待ち続けません。
- 判断に迷ったとき、立ち戻る軸がある
- 状況が変わっても、行動の方向が大きくずれない
- 結果として、現場での判断が自律的に積み重なる
これは、リーダーが強くなったから起こる変化ではありません。
意図が、個人の中に分散して保持されている状態です。
制御不能な時代において、
リーダーが担うべき役割は「制御」ではなく、
意図を共有し続けることなのかもしれません。
終わりに
ソロモンとスリバスタバの論考は、
不安を力に変えるための具体的なステップを提示しています。
一方で、その土台として見えてくるのは、
「不安の中で、何を共有し、何を共有しないのか」という問いです。
意図共有力は、
万能なスキルでも、すぐに成果を保証する技術でもありません。
それでも、制御不能な状況が常態化する時代において、
組織が前に進み続けるための、
静かな背骨のような役割を果たします。
参考文献
- DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー
エリック・ソロモン/アナップ・スリバスタバ
「制御不能な状況に陥った時、リーダーが取るべき5つのステップ」
https://dhbr.diamond.jp/articles/-/13167
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