AIは、私たちの判断を狂わせているのか|行動科学が示す「思い込み」の罠|INNERSHIFT

執筆:最上 雄太

AIが提示した提案を見た瞬間、
「なんとなく信用できない」と感じたことはないでしょうか。

数値も根拠も示されている。
論理的にも、筋は通っている。
それでも、身体のどこかが先に反応してしまう。

その違和感を、私たちはしばしば
「このAIは使えない」という判断に変換します。

けれど、その判断は本当に、
AIの性能から来ているのでしょうか。


一度のミスで、信頼は失われる

DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビューに掲載された論考では、
多くのAI投資が期待された成果を生み出せていない現状が紹介されています。

理由として挙げられているのは、
アルゴリズムの未熟さやデータ不足だけではありません。

印象的なのは、次の指摘です。

AIが一度でもミスをすると、人は使うのをやめてしまう。
人間の判断のほうが分かっている、という過信がAIを退けてしまう。

AIは、人間よりも一貫して高い精度を示すことがある。
それでも、一度の失敗が「信用できない」という評価に直結する。

ここで起きているのは、
技術評価というより、人間側の反応です。


技術の問題ではなく、反応の問題

AI導入がうまくいかない場面では、
「現場に合わなかった」「運用が難しかった」という説明がなされがちです。

もちろん、それらは現実です。
ただ、論考が示しているのは、もっと手前の段階です。

AIは、使われる前に、すでに評価されている。
しかもその評価は、十分に試された後ではなく、
違和感が立ち上がった瞬間に決まってしまうことがある。

変化に直面したとき、人は利益よりも損失に敏感になります。
新しいツールがもたらす可能性より、
慣れ親しんだやり方が崩れる不安のほうが強く感じられる。

AIが問題なのではなく、
変化に対する人間の反射が、判断を早めてしまう。


差異に直面したとき、何が起きているか

AIは、私たちと異なる判断軸を提示します。
そこには、経験も勘も、感情も含まれていない。

その「違い」は、ときに有用であり、
同時に、居心地の悪さも生み出します。

人と人の関係でも、同じことが起きます。

他部署の見立て。
若手の直感。
現場からの違和感。
数字に基づく冷静な指摘。

自分の前提を揺らす意見に触れたとき、
私たちは内容より先に、感情で反応します。

AIは、その反応を可視化する存在なのかもしれません。


判断の前に、立ち上がっているもの

Emotional Compassの24特性のひとつに、
感情俯瞰力があります。

感情俯瞰力とは、
感情を抑え込む力でも、常に冷静でいる力でもありません。

判断に先立って立ち上がる反応――
違和感、拒否感、過信、損失感。
それらを「正しい/間違い」と決める前に、
いったんそのまま眺め直せるかどうか。

「信用できない」と感じたとき、
その言葉が結論なのか、反射なのかを区別できるか。

AIとの協働が難しいと感じる場面では、
技術以前に、この一段が問われているように見えます。

▶ Emotional Compass|24特性
感情俯瞰力(trait_04)
https://innershift.jp/twentyfour-traits/trait_04/


AIとの向き合い方を捉え直す、ということ

論考は、AI投資の効果を高めるには、
行動科学の知見を取り入れ、人間中心で設計すべきだと述べています。

ただ、その前に置かれている問いは、
もっと個人的で、静かなものです。

私たちは、
違和感をどこまで判断として扱っているのか。
差異を、どの時点で切り捨てているのか。

AIとの向き合い方を捉え直すことは、
人間同士の協働のあり方を捉え直すことと、
ほとんど同じ場所に立っているのかもしれません。


参考文献


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