AI時代、「本物」はどう見抜かれるのか|INNERSHIFT

「専門家っぽさ」が増えている

生成AIが普及してから、「専門家らしい言葉」をつくることは、以前よりずっと簡単になりました。

それらしい構造。洗練された表現。説得力のあるフレームワーク。少し整えれば、もっともらしいインサイトは、短時間でも生成できます。

リンクトインには、毎日のように“未来の仕事論”が流れてくる。会議では、新しい概念や整理された戦略が共有される。

けれど、その中で、ときどき不思議な感覚になることがあります。

正しいことを言っているはずなのに、なぜか手触りがない。

整理されている。理解もしやすい。けれど、「で、実際には何が起きたのか」が見えてこない。

そんな感覚です。

HBRが語る「思考実行」

ジョン・ウィンザー(John Winsor)による2026年のHBR記事「AIによって急増した『偽物の専門家』を見抜く方法(Has AI Ended Thought Leadership?)」では、生成AI時代の専門性について、かなり強い問題提起が行われています。

https://dhbr.diamond.jp/articles/-/13719

記事の中でウィンザーは、「思考リーダー(thought leader)」という存在が、AI時代によって揺らぎ始めていると論じています。

なぜなら今は、実務経験がなくても、AIを使えば、もっともらしい専門家として振る舞うことができるからです。

適切なキーワードを並べ、洗練されたプレゼンを作り、未来について語る。それ自体は以前よりはるかに容易になった。

その結果、「専門家っぽさ」だけが大量生産されるようになっている。

記事では、そうした状態を、「専門家劇場(expert theater)」と表現しています。

その上でウィンザーは、これから重要になるのは、「思考リーダー」ではなく、「思考実行(doership)」だと述べます。

つまり、

・実際に試す
・小さく実験する
・失敗する
・壊れる
・修正する

そうした経験を持ちながら、現場に留まり続けること。

記事の中では、「傷跡があるか」という表現も使われています。

失敗した実験。崩れたプロジェクト。予想外の抵抗。そうした現実を通過した人だけが持つ手触りがある、と。

「実行できる人」が正しいのか

HBRの記事は、とても力強い内容です。

特にAI時代では、「語れること」と「やったこと」が切り離されやすくなっている。これは、多くの人が感じ始めていることかもしれません。

ただ、その時に少し気になることがあります。

では、「実行できる人」だけが、本物なのでしょうか。

実際、組織では、「考える人」と「実行する人」が分かれてしまうことがあります。

戦略を語る人。現場で動く人。意味を整理する人。泥臭く試す人。

そして、その分断が強くなるほど、互いの言葉は空回りしやすくなります。

現場から見ると、「きれいごと」に見える。

一方で、現場だけに閉じると、「なぜそれをやるのか」が見えなくなっていく。

だから今回の記事を読みながら感じるのは、「思考」と「実行」のどちらが正しいか、ということではありません。

むしろ、両者が切り離され始めていることのほうです。

prototypeを回す組織

HBRの記事の中で、印象的なのは、「prototype」という言葉が何度も出てくることです。

まず、小さく試してみる。

うまくいかなければ修正する。

崩れたら、また考え直す。

そこでは、「正しい答えを知っている人」が中心にいるわけではありません。

むしろ、試しながら意味を更新していくことそのものが、重要になっている。

The INNERSHIFT Way の「シェアド・リーダーシップ──リーダーシップを分かち合うチームへ」でも触れているように、リーダーシップは、一人の正解によって成立するとは限りません。

むしろ、

・試してみる
・失敗する
・応答する
・修正する
・もう一度やってみる

そうしたやり取りの中で、少しずつ立ち上がってくることがあります。

「傷跡」が意味するもの

HBRの記事では、「傷跡のない専門家」が問題視されています。

ただ、ここで大切なのは、「失敗経験がある人が偉い」という話ではないのだと思います。

重要なのは、その人が、

・何を試したのか
・どこで崩れたのか
・どう意味づけ直したのか
・誰と修正してきたのか

を持っていることです。

Emotional Compassの24特性で言えば、「自己批判性」は、自分の考えや行動を固定化せず、見直し続ける姿勢として整理されています。

また、「対話期待性」は、対話を通して状況や理解が変わっていく可能性を信じる特性です。

AI時代には、「正しいことを説明する力」は、さらに強くなっていくかもしれません。

けれど、本当に必要なのは、「完成された正解」を持つことだけではないのかもしれません。

むしろ、

試してみること。
崩れること。
修正すること。
そして、その意味を対話の中で更新し続けること。

そうした関係そのものが、これからのリーダーシップにとって、ますます重要になっていくのかもしれません。

参考文献

ジョン・ウィンザー(John Winsor)による、AI時代の専門性とリーダーシップに関する2026年のHBR記事「AIによって急増した『偽物の専門家』を見抜く方法(Has AI Ended Thought Leadership?)」

https://dhbr.diamond.jp/articles/-/13719

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