「この人とは、安心して一緒に働ける。」
そう感じる関係は、どのように生まれるのでしょうか。
信頼という言葉は、しばしば個人の人格や誠実さと結びつけて語られます。
あの人は信頼できる人だ。
あの人は裏切らない人だ。
しかし、実際の組織の中で信頼が形になる場面を考えてみると、それは必ずしも個人の内面だけで説明できるものではありません。
同じ人であっても、ある関係では信頼が生まれ、別の関係では距離が残ることがあります。
あるチームでは安心して意見を言えるのに、別のチームでは沈黙が選ばれることもあります。
信頼は「人」に宿るものなのでしょうか。
それとも「関係」の中で生まれるものなのでしょうか。
近年の組織研究では、この問いに対して、少し異なる見方が提示されています。
信頼は個人ではなく関係に宿るのか
私たちは信頼を語るとき、つい個人の資質に目を向けがちです。
誠実であるか。
約束を守るか。
一貫した行動をとるか。
こうした要素はもちろん重要です。
しかし、組織の中での信頼は、それだけでは説明しきれません。
同じ人物であっても、ある人とは深く信頼し合い、別の人とは距離がある。
同じチームでも、安心して話せる場と、発言をためらう場が存在する。
こうした違いは、個人の性質だけでなく、関係そのもののあり方に依存しています。
そのため近年の研究では、信頼を「個人の属性」ではなく、**関係の質(quality of connection)**として捉える視点が注目されています。
関係の質が組織の成果を変える
Dutton や Heaphy らによる研究では、「高品質な関係(High-Quality Connections)」という概念が提唱されています。
これは、単に仲が良い関係ではなく、
- 相互に尊重されている
- 感情を安心して扱える
- 相手の存在によって活力が高まる
といった特徴を持つ関係を指します。
このような関係が組織の中に存在すると、どのような影響が生まれるのでしょうか。
複数の実証研究では、高品質な関係を持つチームは、
- パフォーマンスが有意に高い
- 学習や知識共有が促進される
- 心理的・身体的ストレスが低減される
といった傾向が確認されています。
また、Methot ら(2022)の研究では、感情的なつながり(affective ties)を持つ関係ネットワークが、
- 協働行動の増加
- 組織へのコミットメント向上
- 離職率の低下
と関連していることが示されています。
これらの結果は、信頼が単なる個人の特性ではなく、関係の質として組織全体に影響を及ぼす要素であることを示しています。
信頼は「感情を扱える関係」として現れる
では、高品質な関係とは具体的に何を意味するのでしょうか。
その特徴のひとつが、感情を安全に扱えることです。
嬉しさや達成感だけでなく、不安や迷い、違和感といった感情も含めて、安心して表現できる。
それらが関係を壊すものではなく、関係を深める契機として扱われる。
こうした関係の中では、人は無理に自分を整える必要がなくなります。
その結果、自然なかたちで関わりが生まれ、行動が広がっていきます。
信頼とは、何かを「信じる」ことだけではなく、この関係の中にいられるという感覚なのかもしれません。
絆のリーダーがつくるもの
Emotional Compassの24特性で考えると、こうした関係を支える力にはいくつかの側面があります。
共感的行動
https://innershift.jp/twentyfour-traits/trait_04/
関係構築力
https://innershift.jp/twentyfour-traits/trait_14/
信頼醸成力
https://innershift.jp/twentyfour-traits/trait_18/
相手の状態に目を向けること。
関係を継続的に育てていくこと。
時間をかけて信頼を積み重ねること。
これらは、目立つ行動ではないかもしれません。
しかし、日々の関係の中でこうした働きが積み重なることで、関係の質は少しずつ変化していきます。
絆のリーダーが生み出しているのは、強い影響力や劇的な変化ではなく、関係の中に安心して存在できる空間なのかもしれません。
なぜ今、関係の質が問われるのか
現代の組織では、働き方が大きく変化しています。
リモートワークの拡大。
組織の流動化。
人と人との接点の希薄化。
こうした環境の中では、関係は自然に深まるものではなくなりつつあります。
その一方で、協働や創造性は、依然として人と人の関係の中から生まれます。
だからこそ、単に「つながる」ことではなく、どのような質の関係をつくるのかが重要になっています。
信頼とは何を意味するのか
信頼とは、誰かの人格を評価することなのでしょうか。
それとも、関係の中で生まれる感覚なのでしょうか。
人は、完全に相手を理解できるわけではありません。
それでも、安心して関わり続けることができる関係は存在します。
そのとき、私たちは何を信じているのでしょうか。
相手の正しさなのか。
それとも、この関係そのものなのか。
信頼という言葉は、個人の内面だけでなく、関係の中に目を向けたときに、少し違った意味を持ち始めるのかもしれません。
参考文献
Dutton, J. E., & Heaphy, E. D.
The power of high-quality connections.
Methot, J. R., et al.(2022)
Social network and affective ties in organizations.
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