「自分は何者か」を求められる時代に、誠実性はどう立つか|INNERSHIFT

執筆:最上 雄太

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なぜ、私たちは「自分らしさ」を語らされるのか

面接でも、評価面談でも、リーダー選抜でも、
私たちは繰り返し問われます。

「あなたは何者ですか」

単なる経歴ではない。
肩書きでもない。

価値観、原体験、信念、情熱。
仕事と人生を貫く“物語”。

いま、リーダーには「自分らしさ」を語る力が求められています。

しかし、この問いに応え続けることは、
本当に私たちを強くしているのでしょうか。


アイデンティティマップという提案

コロンビア・ビジネススクールのポール・イングラムは、
リーダーの信頼やネットワーク形成を研究する中で、

“Who Are You as a Leader?”(HBR, 2025)

において「アイデンティティマップ」という手法を提案しました。

それは、

など、自分を構成する要素を洗い出し、
中央に「私」を置いて視覚化する方法です。

この研究で示された一つのデータがあります。

アイデンティティ要素を26個書き出した人の
仕事上のネットワーク規模は、
13個しか書き出さなかった人より80%大きかった

多面的であることは、
つながりを広げる可能性を持つ。

ここまでは、前向きな提案に見えます。


しかし、問題はそこではない

この議論は、
しばしば次のように解釈されます。

しかし、
「自分は何者か」を語ることは、
常に解放的とは限りません。

職場でアイデンティティ要素を隠している人は少なくない。
研究では、エグゼクティブの**80%**が、
少なくとも一つの要素を職場で隠していると報告されています。

隠すことは、防御でもあります。

では、
すべてを語ることが誠実なのでしょうか。


オーセンティシティをどう扱うか

Authenticity(オーセンティシティ)は、
しばしば「自分らしさ」と訳されます。

しかしそれは、

を意味するのでしょうか。

もしそうなら、
「語らない」という選択は、
不誠実と見なされてしまいます。

ここに、混線があります。


誠実性という特性

Emotional Compassの24特性の一つ、
誠実性 は、

状況に流されず、自分の価値観と行動を一致させようとする姿勢

を指します。

誠実性は、「全部話すこと」ではありません。

それは、

です。

アイデンティティマップは、
自己開示を促す道具というより、

自己提示の設計図

と見ることもできます。

何を中心に置くのか。
どの要素を結びつけるのか。
どれをあえて周縁に置くのか。

それは、誠実性の問題です。


セルフ・オーサーシップの再定義

研究の中では「セルフ・オーサーシップ(self-authorship)」という概念も扱われています。

他者が定義した自己像ではなく、
自分で自分を定義する。

それは、自由のように聞こえます。

しかし同時に、

「自分で定義した自己に責任を持つ」

という意味でもあります。

多面的なアイデンティティを持つことは可能です。
しかし、それらが調和していると認識できるかどうかが重要だと研究は示唆します。

調和とは、
すべてが同じであることではありません。

選び取った物語に責任を持てる状態
と捉えることもできるでしょう。


何を語らないか

私たちは、常に選択しています。

それは演出でしょうか。
それとも戦略でしょうか。

あるいは、

誠実性とは、
「何を語らないか」を含めて引き受けることなのかもしれません。

「自分は何者か」を求められる時代に、
誠実性はどこに立つのか。

それは、
すべてを開示する勇気ではなく、
語る範囲を選び、その選択に責任を持つ姿勢にあるのかもしれません。


参考文献


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