「忙しい」を手放さないリーダーの心理|INNERSHIFT

執筆:最上 雄太

人員が増えれば、リーダーの仕事は減る。
そう考えるのは、ごく自然なことです。

採用が進み、体制が整い、ようやく余裕が生まれる——
はずだったのに、現実には忙しさがあまり変わらない。
むしろ、以前とは違う種類の忙しさが続いている。

この状況に対して、私たちはついこう言ってしまいます。
「仕事の仕方を変えればいい」
「任せるべきだ」
「もう自分でやらなくていいはずだ」

それらは、間違ってはいません。
しかし同時に、どこか腑に落ちない感覚も残ります。

なぜなら、多くのリーダーは
「手放したくない」わけではないからです。
それでもなお、「忙しい」という状態を手放せない。
そこには、もう少し別の理由があるように思えるのです。


人が増えても、忙しさが消えない理由

人員補充が完了したあと、現場では次のようなことが起こりがちです。

周囲から見れば、「もう任せられるはず」に見えます。
本人も、頭ではそう理解していることがほとんどです。

それでも、気づけばスケジュールは埋まり、
細かな確認や意思決定に追われている。

この状態は、怠慢でも、支配欲でもありません。
マネジメント理論を知らないからでもない。

多くの場合、それは
リーダーという役割が変化した結果として生じている現象です。


「忙しい」は、不確実性に耐えるための感情的な合理性

人が増えると、リーダーの仕事は減る。
——量的には、確かにそうかもしれません。

しかし同時に、別のものが増えていきます。

つまり、不確実性です。

組織が小さいうちは、
「自分がやる」「自分が決める」ことで、多くの曖昧さを処理できました。
忙しさは、そのまま統制感につながっていたのです。

心理学の古典的な研究では、
人は不確実な状況に置かれるほど、
それを低減させる行動に強く動機づけられることが示されています。

忙しく動くこと、関与し続けること、確認を重ねることは、
即効性のある「安心」をもたらします。

だから「忙しい」という状態は、
非合理どころか、感情的にはきわめて合理的なのです。


リーダーが手放していないのは、仕事ではなく「安心」かもしれない

この視点に立つと、見え方が変わります。

リーダーが手放せていないのは、
仕事そのものではなく、
忙しさが与えてくれていた安心感なのかもしれません。

忙しさは、

人が増え、役割が広がるほど、
この安心は簡単には代替できなくなります。

だから、「任せればいい」「減らせばいい」という助言は、
正しくても、実行が難しい。
それは単なる業務改善ではなく、
感情の再設計を伴うからです。


実務の現場では、何が起きているのか

DIAMONDハーバード・ビジネス・レビューの記事でも、
人員を補充しても、リーダーの忙しさは自動的には減らないことが指摘されています。

そこでは、
「人が増えても、仕事の仕方を変えなければ成果は出ない」
という、もっともな結論が示されています。

ただし、こうした議論では、
「なぜ変えられないのか」
「なぜ手放せないのか」
という問いは、十分に扱われないことが多い。

本稿で見てきたように、
その背景には、不確実性への対処という心理的な側面があります。

仕事の仕方を変える前に、
リーダー自身が何によって支えられてきたのかを理解すること。
それを飛ばしてしまうと、正論は正論のまま空回りします。


終わりに

「忙しい」は、必ずしも悪ではありません。
それは、これまでリーダーが不確実性に向き合い、
責任を引き受けてきた証でもあります。

だからこそ問うべきなのは、
「どうすれば忙しくなくなれるか」ではなく、

「自分は、何を守るために忙しくしてきたのか」

その問いに向き合うことから、
次のリーダーシップのかたちが見えてくるのかもしれません。


参考文献

https://dhbr.diamond.jp/articles/-/13042

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