交渉から感情は排除できるのか|「冷静さ」が交渉を難しくする理由|INNERSHIFT

執筆:最上 雄太

ビジネスの現場で「交渉」という言葉が使われるとき、
そこにはしばしば暗黙の前提があります。
それは、感情は排除すべきものであり、冷静さこそが合理的判断を導く、という考え方です。

価格、条件、役割、責任。
重要な局面ほど、「感情的になるな」「事実だけを見ろ」という助言が繰り返されます。

しかし本当に、交渉から感情を排除することは可能なのでしょうか。
そして、それは交渉を前に進める助けになっているのでしょうか。


感情は、交渉の外側に置けない

DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビューに掲載された
キンバリン・リアリー/ジュリアナ・ピルマー/マイケル・ウィーラーによる
**「交渉から感情を排除できるか──『ハーバード流交渉術』を超えて」**は、
この前提そのものに疑問を投げかけています。
https://dhbr.diamond.jp/articles/-/2018

著者たちは、数多くの交渉事例と研究を通じて、
どれほど経験豊富な交渉者であっても、感情から逃れることはできない
という事実を示しています。

交渉は本質的に、

といった条件を抱えています。
この環境下で、不安や焦り、苛立ちが生まれるのは例外ではありません。

重要なのは、
感情が生まれること自体ではなく、それを「排除しよう」とする姿勢です。


「冷静さ」が交渉を硬直させる瞬間

リアリー、ピルマー、ウィーラーは、
感情を切り離そうとする交渉ほど、
結果的に交渉を難しくしてしまうという逆説を示しています。

感情を無視した交渉では、

といった現象が起こりやすくなります。

実際、同論文で紹介されている事例では、
表面的には取るに足らない出来事が、
それ以前に蓄積されていた感情を引き金に、
交渉全体を破綻させています。

感情は交渉のノイズではありません。
状況を理解するための重要なシグナルです。


感情を扱う力としてのレジリエンス

この論点は、Emotional Compassが扱う
レジリエンスという特性と深く重なります。

レジリエンスとは、
感情を感じない力ではありません。
むしろ、

を指します。

▶ Emotional Compass|レジリエンス
https://innershift.jp/twentyfour-traits/trait_03/

リアリーらが提示する交渉のあり方も、
感情を抑え込むことではなく、
感情を含んだまま判断を続ける姿勢にあります。

不安を感じていることを自覚しながら、
それでも対話を閉じない。
苛立ちを覚えつつも、相手を敵とみなさない。

それは「冷静さ」とは異なる、
感情を内包した安定性です。


感情を排除しない交渉が開く余地

「交渉から感情を排除できるか──『ハーバード流交渉術』を超えて」
(リアリー/ピルマー/ウィーラー)は、
交渉に臨む前の感情的な準備の重要性にも触れています。

自分はどんな場面で反応しやすいのか。
どんな言葉や態度に強く揺さぶられるのか。

こうした準備は、
交渉相手を操作するための技術ではありません。
自分自身の反応を理解するための下地です。

感情を排除しようとする交渉は、
相手との関係だけでなく、
自分自身との関係も切断してしまいます。

一方、感情を前提に含めた交渉は、
対話の余白を残し、
創造的な合意への道を開きます。


おわりに

「交渉から感情は排除できるのか」という問いは、
交渉技術の話であると同時に、
人間理解の問いでもあります。

冷静であろうとするほど、
私たちは重要な手がかりを手放してしまうことがある。

交渉を難しくしているのは感情そのものではなく、
感情を扱う準備を持たないまま、
合理性だけで進もうとする姿勢なのかもしれません。


参考文献


INNERSHIFTからのお知らせ

INNERSHIFTでは、
感情と意思決定、対話、リーダーシップの関係を
Emotional Compass を通じて探究しています。

本記事で扱ったレジリエンスは、
不確実な状況の中で感情を排除するのではなく、
感情とともに判断を続けるための重要な特性です。

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